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防犯に強い住まいづくり
〜安心して住み続けるために〜

マヌ都市建築研究所 主任研究員 亀山 恒夫

犯罪に対する不安

唐突ですが読者の皆さんにお尋ねします。
皆さんは、いま日本の治安は良くなってきているとお考えでしょうか。それとも悪くなってきているとお考えでしょうか。
続けてもう一つお尋ねします。
昨年の住宅への侵入窃盗は全国で約12万件発生(認知件数[1])しました(「平成18年の犯罪情勢」警察庁)。
皆さんは、この件数を「多い」と思いますか、それとも「少ない」と思いますか。

私の勝手な予想ですが、最初の問いはすぐに回答できた方が多いでしょう。内閣府の社会意識調査(平成19年1月)によると、「現在の日本の状況で悪い方向に向かっていると思われる点」として「教育」に次いで「治安」があげられています。
一方、二つ目の問いはなかなか回答しにくいのではないでしょうか。比較するものとして、ご参考までに、全国の世帯数は約4,957万世帯(平成17年国勢調査)ですので、一千世帯あたりの住宅への侵入窃盗は約2.5件となります。もちろん地域差などもありますので、まだこれでも答えにくいかもしれません。
図表を見ながらもう少し詳しく見てみたいと思います。
約20年前の平成元年の内閣府の社会意識調査をみると、悪化している問題として「自然環境」や「土地・住宅」が取り上げられ「治安」をあげた人は1割以下でした。「治安」が大きな問題として取りあげられるようになったのは平成6年以降で、平成14年には第5位の問題として取りあげられました。そして平成17年には「治安」をあげた人が最も多く(47.1%)なったのです。(但し、この調査は平成10年以降集計方法が変わっているため、単純には比較できません。)

【現在の日本の状況で悪い方向に向かっていると思われる点内閣府社会意識調査より】
  1 2 3 4 5 治安
平成元年 自然環境(57.1) 土地・住宅(47.5) 社会風潮(35.0) 福祉(28.3) 教育(26.0) 9.4%
平成2年 自然環境(60.7) 土地・住宅(43.0) 社会風潮(30.1) 外交(30.0) 景気・物価(28.6) 10.0%
平成3年 自然環境(58.9) 外交(45.2) 土地・住宅(39.2) 物価(38.3) 景気(35.7) 11.0%
平成4年 景気(53.3) 自然環境(51.9) 外交(38.5) 物価(36.4) 社会風潮(28.3) 11.1%
平成5年 景気(53.3) 雇用・労働条件(51.9) 自然環境(38.5) 物価(36.4) 食料(28.3) 11.9%
平成6年 自然環境(69.6) 景気(49.2) 雇用・労働条件(47.4) 物価(46.9) 社会風潮(33.0) 29.2%
平成7年 景気(60.5) 自然環境(50.8) 雇用・労働条件(49.2) 国の財政(42.7) 外交(39.8) 32.4%
平成8年 国の財政(54.4) 景気(51.5) 自然環境(47.2) 雇用・労働条件(41.1) 物価(40.8) 23.9%
平成9年 景気(71.9) 国の財政(58.5) 自然環境(49.3) 雇用・労働条件(44.8) 医療・福祉(42.2) 20.3%
平成10年 景気(65.3) 雇用・労働条件(51.6) 自然環境(41.9) 国の財政(34.4) 経済力(30.7) 18.8%
平成11年 - - - - - -
平成12年 景気(46.9) 雇用・労働条件(43.0) 自然環境(37.2) 国の財政(36.1) 社会風潮(29.0) 26.6%
平成13年 - - - - - -
平成14年 景気(65.3) 雇用・労働条件(51.6) 国の財政(41.9) 経済力(34.4) 治安(30.7) 30.7%
平成15年* 景気(45.5) 雇用・労働条件(44.6) 治安(39.5) 国の財政(38.3) 自然環境(27.4) 39.5%
平成16年* 治安(47.9) 国の財政(39.1) 景気(38.5) 雇用・労働条件(35.4) 自然環境(29.6) 47.9%
平成17年* 治安(38.3) 国の財政(39.1) 外交(38.5) 雇用・労働条件(35.4) 自然環境(29.6) 38.3%
平成18年* 教育(36.1) 治安(35.6) 雇用・労働条件(33.5) 国の財政(32.7) 医師・福祉(31.9) 35.6%

では、実際の犯罪情勢はどうだったのでしょうか。全刑法犯の認知件数でみると、平成14年のピーク(約285万件)を境に減少を続け、平成18年はピーク時の約7割(約205万件)となりました。つまり、実際の犯罪件数(警察統計上の認知件数)と「治安が悪化している」と感じている人に若干の相関が見られるものの、犯罪件数がここ数年で大幅に減少しているにもかかわらず、治安が悪化していると感じる人はその後も高い割合を示したままです。犯罪不安が高まった背景は、犯罪報道の方法も影響しているという意見もあります。また、身近で犯罪が起きた人にとっては、数字に関係なく不安を感じるものでしょう。皆さんはどのように感じるでしょうか。

【刑法犯認知件数に推移】

ちなみに二つ目の問いの「住宅への侵入窃盗」は、平成15年に192,383件(認知件数)を記録した後、昨年は123,403件とここ3年間で3割以上減少しています。

【住宅への侵入窃盗の認知件数の推移】

犯罪はもちろん起きてほしくないですし、まして自分や家族、自宅が狙われてほしくありません。一方で、テレビ等の報道や表面上の数字だけを見て、犯罪に対する不安を募らせても何の解決にもなりません。そこで、どのような犯罪がどこで、どのくらい起きているのか。どうしたら犯罪を防ぐ、あるいは被害を最小限にとどめることができるのかを冷静に見つめるようにしたいものです。

住まいの防犯を考える

それでは、住まいの犯罪について考えてみたいと思います。怨恨等によって生じる犯罪を除けば、住まいが犯罪現場となる犯罪は侵入窃盗や放火など住まいや敷地内に侵入されることによって生じるものがほとんどです。では、どのようにしたら犯行者の侵入を防ぐことができるのでしょうか。また、どのような対策が有効なのでしょうか。 しかし、ここに防犯の難しさがあります。地震等に対する災害対策と異なり、犯罪対策は、その効果を測ることがとても難しいのです。例えば、住宅への侵入を防ぐため、玄関の錠を不正解錠や破壊等に対して強いものに交換したとします。しかし、このことによって果たして侵入しようとする者がどのくらい侵入をあきらめるのかはわかりません。別の窓から侵入するかもしれませんし、もしかすると全く別の手口で侵入するかもしれません。防犯の場合、相手が「人」であるだけに、犯罪抑止の効果を具体的に検証することが極めて難しいのです。

ここでは視点を変えて、住宅への侵入を防ぐことを中心に考えてみます。犯罪は3つの要素が揃ったときに発生するという理論[2]があります。

1. 犯罪動機をもつ潜在的な犯行者の存在
2. 犯罪者が欲する適当な標的(人、金銭など)の存在
3. 現場を見守る有能な監視者の不在(人の目)

【ルーティン・アクティビティ理論の概念図】

犯罪が発生する状況に着目した理論ですが、日々繰り返される生活において、このような要素が生じると犯罪が起きやすくなると考えられます。また、逆に、このような要素を減らすことによって犯罪を防ぐことができます。 ここで紹介する具体的な防犯手法「防犯環境設計」はCPTED(Crime Prevention through Environmental Designの頭文字で「セプテッド」と発音します)とも呼ばれ、1970年代以降にアメリカから広まった防犯手法の考え方の一つです。建物や道路、公園など、人がつくる環境を適切にデザインし利用することによって、犯罪に対する不安感と犯罪の減少を導くことができるとする概念に基づく方法です。前述の理論に基づけば、生活環境を見守る監視者を配置し、犯行者の標的となるものを回避させ、犯行者が物理的にも心理的にも近づけさせないようにするものです。

【防犯環境設計の手法】

参考
[1]警察において発生を認知した件数の数
[2]ルーティン・アクティビティ理論:1979年米国の犯罪学者 マーカス・フェルソンとローレンス・コーエンが発表した理論

次回は、住まいの防犯について、一戸建て住宅を中心にもう少し具体的なお話をしたいと思います。

【かめやま・つねお 】

マヌ都市建築研究所 主任研究員

千葉大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。 住宅政策に関わる一連の業務や、既成市街地のまちづくりに関わる業務、景観・街並み形成に関わる業務、防犯・防災まちづくり、防災計画に関わる業務などを主に担当。共著書「ドイツのまちづくりNPO」など。