住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

防災に強い住まいづくり
〜阪神・淡路大震災から13年、いまこそ『防災』を考えよう!〜

螢泪姪垰垠築研究所 取締役・上席主任研究員 神谷 秀美

阪神・淡路大震災は過去のこと?

この1月17日に、阪神・淡路大震災の13周年を迎えます。苦しい被災生活の中で生まれた子どもたちも、もうすぐ中学生。阪神・淡路大震災が世間の話題 に上ることもめっきり少なくなりました。あれはもう過去の出来事なのでしょうか?

阪神・淡路大震災の特徴は建物被害の多さ

阪神・淡路大震災では10万棟以上の家屋が全壊しました。半壊・一部損壊や焼失も含めれば、約52万棟の建物が何らかの被害を受けています。この建物被害の多さが阪神・淡路大震災の特徴のひとつと言われています。そして、この震災による犠牲者のうち8割以上は建物被害によると言われています。

写真1:阪神・淡路大震災の建物被害の様子

この間に住まいやまちは強くなったか?

多くの建物被害が大都市に大惨事をもたらした阪神・淡路大震災。それから13年を経て、住まいやまちは強くなったでしょうか?
 現在の建物は建築基準法の耐震基準に基づいて建てられていることはご存知の方も多いと思います。この耐震基準は昭和46年に定められ、その後昭和56年に大幅な改定が行われて現在に至っています。阪神・淡路大震災では多大な建物被害が発生しましたが、その後、耐震基準の改定は行われていないのです。
 その理由は、阪神・淡路大震災で全壊した建物のほとんどが、老朽化した建物や昭和56年以前の古い耐震基準の建物だったからです。昭和56年以降の耐震基準で建てられた建物はあまり被災しませんでした。そのため、「新たな耐震基準は必要ない。むしろ、古い建物を現在の耐震基準を満たせるように補強したり、建て替えたりすることの方が重要」と判断されたわけです。
 いま新たに建てられる建物は、もちろん昭和56年に定められた耐震基準に基づいて建設されています。古い建物が建て替わるたびに、まちには耐震基準を満たした建物が増えていきます。その意味では、阪神・淡路大震災の頃に比べて、現在の住まいやまちは徐々に安全になってきていると言えるでしょう。

それでも、平成16年(2004年)新潟県中越地震、平成19年(2007年)能登半島地震、平成19年(2007年)新潟県中越沖地震など、近年の地震災害でもやはり建物の被害が目立ちます。それは何故でしょう?
全国には、古い建物がまだまだ多く残っていることも理由のひとつです。しかし理由はそれだけではありません。もうひとつの理由は、耐震基準そのものの性格にあります。現在の耐震基準の目的は、地震から「建物を守る」ことではなく、「人命を守る」ことを目的としているのです。ですから、地震で多少建物が壊れようとも、人命が損なわれるような壊れ方をしなければ、それで良しとされているのです。

建築基準法の許容範囲

具体的な例で考えてみましょう。
 下の写真は、新潟県中越地震で被災した建物の例です。いつ頃建てられた建物なのか詳しくはわかりませんが、つくり方から見て昭和56年以降の耐震基準で建てられたもののようです。鉄筋コンクリートでつくられた基礎と住まいの部分が大きくずれて、住まいが傾いています。人命が損なわれるような壊れ方ではありませんが、建て替えなければ住み続けることはできそうにありません。
 いま、あなたがお住まいの地域を大地震が襲えば、あなたの住まいがこれと同じような被害を受けないとも限りません。地震により貴重な財産が失われてしまうということも心配ですが、それ以上に、自宅に住めずに過酷な被災生活を過ごさなければならなくなるのは、心身の健康を考えれば、もっと心配なことです。

写真2:新潟県中越地震の建物被害の例

防災は安全な住まいづくりから

近年、防災の分野では、“自助”、“共助”の重要性が言われています。“自助”とは、自分の身は自分で守るということ。“共助”は、隣近所で協力し、助け合いながら災害に備えるということです。そして最近は特に“共助”による取り組みが大きな課題とされる傾向が強まっています。
 しかし、隣近所で協力し合うといっても、住まいの事情や暮らしの環境に対する関心は人によって様々です。なかなか足並みが揃うものではありませんし、何もかも“共助”で解決できるわけでもありません。やはり、基本は“自助”なのだと思います。
 我が家の防災は、まず、安全な住まいづくりから。自分の住まいのことなので、自分だけでも取り組めます。逆に、地域の人々にはなかなか協力してもらいにくいことでもあります。
 元来、住まいとは雨露をしのぎ、厳しい自然環境などから家族の健康と安全を守ってくれるシェルターなのではないでしょうか。地震に対しても安全なシェルターであって欲しいと願う人も少なくないと思います。そのため、大手のハウスメーカーでは免震住宅や、鉄筋コンクリート造並みの防火性能を持つ木造住宅なども開発し、商品化しています。古い建物の補強技術もローコストの手軽なものから、新築住宅並みの強度を得られるものまで、様々なものが開発されています。
 建物が壊れにくくなれば、地震時の人命などの被害が減るだけでなく火災も減ります。地震時の火災は倒壊した建物が火種になることが多いのです。地震後も自宅で生活できる人が増えれば、避難生活に苦しむ者も減り、社会的な混乱も大幅に減らすことができるでしょう。
 ひとりひとりが安全な住まいづくりを考えるということが、防災の第一歩なのです。

天災は忘れた頃にやってくる

近年の日本での地震災害は、いずれも地方都市や集落部で発生しています。阪神・淡路大震災以降、大都市を襲った地震災害の例はまだありません。大都市と地方都市あるいは集落部では、地震災害の様相や課題は大きく異なります。近年の例は、東京をはじめとする大都市ではあまり参考になりません。
 一方で、数十年のうちには首都圏直下で大地震が発生するのではないかと言われ、東海地震もいつ発生してもおかしくないと言われています。いま、東京などの大都市が大地震に襲われたら、一体どうなるのでしょう?
 国の中央防災会議では平成17年に、東京湾北部で大地震が発生した場合、最大で約85万棟の建物が全壊・焼失し、死者は1万人以上という想定を発表しています。阪神・淡路大震災の被害をはるかに上回る規模です。この数字だけは、どのような状況になるのか具体的にイメージすることは難しいと思いますが、何だか大変なことになりそうだということだけは言えそうです。
 阪神・淡路大震災から13年。随分と時は過ぎてしまいましたが、忘れかけているいまだからこそ、もう一度あの震災を思い出し、我が家の『防災』を考えてみる必要があるのではないでしょうか。

次回は、引き続き「住まい」や「まち」の身近な防災対策についてご紹介します。

【かみや・ひでみ】

螢泪姪垰垠築研究所 取締役・上席主任研究員

螢泪姪垰垠築研究所に入社以来、一貫して地震防災や防災まちづくり関連の調査・計画業務に従事。地域コミュニティに根ざした「防災」や「まちづくり」を旨とし、近年はGISによるシミュレーション技術などを活用しながら、地域住民による防災まちづくりへの支援などに取り組んでいる。