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『THIS IS an ARCHITECT』

一級建築士・インテリアコーディネーター 溝渕 木綿子

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はじめに

平成17年の秋に「一級建築士」の倫理性が問われる事件が起こりました。一級建築士による構造計算書の偽造です。そして改めて、多くの人が建築士の抱える責任の重さを再認識させられました。
 建物は、地震や台風、大雪などのさまざまな天災や犯罪から人間を守るシェルター機能を有しています。また、建築士が残す建物は、長い間、まちに存在し続け、街並みを形成します。次の世代に継承されるような建物や、環境をつくりだすという意味では、社会という単位に対して、文化的な責任も担っています。
 専門家には必ず倫理性が求められますが、人間の生命に直接係わるということ、そして文化的な責任も担っているということから、建築士の倫理性は特に深刻なものです。
 しかし、一般の人にとっては、一生に一度あるかないかというマイホーム建設の機会でもなければ、建築士と出会うことがありません。いざという時に信頼すべき建築士に出会うためには、建築士を知ることが必要です。建築士とは何か、そしてどのような方向に進んでいるのか、などをお話ししようと思います。

建築士とは何か?

一級建築士は国家資格

建築士は、建築士法により、一級・二級・木造の3種に分類されます。一級は無制限ですが、二級と木造は、担当できる建物の構造規模が限定されています。ここでは、一級建築士に絞って話を進めます。
 一級建築士の資格は、全国で30万人以上が登録しており、国土交通大臣の免許を受ける国家資格です。受験資格のハードルが高いこと(建築の専門教育+一定期間の実務経験)、さらに年1回の試験の合格率も低いこと(平成17年は約11%)などから、一般には高難度の専門資格と言われています。

建築士は何をするか

建築士の具体的な業務内容として、最もわかりやすいのは建物の設計業務です。また、その他に設計監理や積算業務があります。設計監理は、工事の段階で、設計図書どおりに施工されているかどうかを建主の立場で確認・検査して、より質の高い建物をつくるための仕事です。積算は、設計した建物の工事費を算定し、施工者の見積価格の適正さを確認する仕事です。
 また、単体の建物ではなく、街並み全体を対象にして、まちづくりや都市のあり方を考えることも重要な建築士の業務の一つです。

設計の3つの分野

建物を設計する技術は、意匠(いしょう)、構造、設備の3つに分類されます。
 例えば、住宅を設計する場合、まず、間取り、屋根の形状や色、外壁の素材、内装材の種類などを提案します。最終的に建主のニーズを反映し、法律に抵触しないように、また周囲の街並みにも溶け込むように建物を計画し、これをとりまとめて設計図を作ります。これが意匠設計です。
 次に、建物が地震や大雪、台風などに耐えられるように、使用する柱などの部材の断面の大きさや強度を決め、外から見えない部分の構造などを細かく綿密に計算します。そして構造計算書、構造図を作成します。これが構造設計です。
 最後に、部屋の中で快適に生活するために必要な水道、ガスや電気の供給、空調設備、照明器具などを計画し、住宅が生活の場として機能できるようになります。これが設備設計です。

建築士には専門がある

一人の建築士が意匠、構造、設備の全ての設計をこなすことは、一般には不可能です。建築士はオールマイティな職能ではなく、それぞれに専門分野を持っています。国家試験ではあらゆる分野を網羅して出題されるため、建築士はオールマイティな基礎知識は持っていますが、各専門分野は、常に高度で先進的な専門知識が要求されることから、専門領域は限定されています。
 建物を設計する時には、各分野を専門とする建築士が仕事を分担し、最終的には意匠を担当する建築士が統括して設計をとりまとめます。それぞれの専門性については、医者をイメージして外科医と内科医、精神科医などの専門を想像すればわかりやすいでしょう。
 ですから、建築士にアプローチする場合には、何を相談したいのかということを明確にして、建築士の専門分野と照らし合わせて、的確な人に相談をすることが大切です。全般的な相談の時には、統括的な役割を持つ意匠設計を専門としている建築士(建築設計事務所の代表など)が適任です。

建築士はこれからどうなるのか?

資格制度の見直し

平成17年秋の社会問題を契機として、一級建築士の資格制度の見直しがはかられています。平成18年4月に国土交通省がとりまとめた「構造計算書偽造問題に関する調査委員会」の最終報告では、建築技術が高度化したことに伴い、「建築士の資格を専門分化すること」と、「資格を得た後の継続教育の重要性」が謳われています。
 この資格制度の見直しの方向に対して、先進的に取り組んでいる職能団体があります。建築士会です。建築士会とは、「建築士の業務の進歩改善と建築士の品位の保持、向上を図り、建築文化の進展に資する」ことを目的に、建築士法第22条の2に基づいて都道府県ごとに設立された社団法人です。

建築士会の専攻建築士制度

建築士会では、任意の制度である「専攻建築士制度」を推進しています。これは、一級建築士が、自らの専攻・専門領域を建築士会に認定・登録してもらい、社会に示す制度です。
 専攻建築士として認定されるためには、建築士会に所属し、専攻領域別において責任ある立場での実務経歴を積み、かつ自主的に継続的な能力開発を行っていることが必要です。
 専門分野を掲げずに開業している医者はいません。医者にかかる時には、看板を見ればすぐに、私たちは外科なのか産婦人科なのかを知ることができます。これと同じように、多様に専門分化している建築士の業務においても、自らの専攻・専門分野を消費者に示していこうとする制度です。この制度が浸透すれば、全ての建築士は社会的責任のもとに専門領域を明示することになります。

専門領域の例 ・設計専攻建築士 ・構造専攻建築士 ・環境設備専攻建築士
  ・生産専攻建築士 ・生産専攻建築士 ・棟梁専攻建築士
  ・法令専攻建築士 ・まちづくり専攻建築士 ・教育研究専攻建築士

専攻建築士制度には、専門領域がわかりやすくなること以外にも、大きな魅力があります。これは、5年ごとの更新の時に、5年間の自己研鎖(CPD=Continuing Professional Development=継続能力開発)の実績を積むことが義務づけられているということです。この、継続能力開発を評価する制度がCPD制度です。

建築士会のCPD制度

CPD制度は、建築士会が実施している任意の制度です。継続能力開発を行っている建築士の実績を確認して証明し、表示するものです。建築士は自発的にCPD制度に登録し、1年間で一定の評点をクリアすべく、努力、研鑽を行います。
 現代の社会では、建築主からのニーズ、社会的なニーズは複雑多岐に渉ります。社会的責務を全うするため、建築士は日々精進して新しい技術を身につけ、その要求に応えることが期待されます。また、自分の技能や技術を向上させようという意欲は、建築士としての責任感につながると評価できます。
 つまり、CPDで研鑽を積んだ建築士は、技術・技能・倫理、そして責任感のあらゆる面で信用できる人であると評価できるのです。

最後に

建築士を選ぶ社会の厳しい目が整えば、質の悪い建築士は淘汰され、技術、人格、責任感を兼ね備えた、信頼すべき建築士のみが生き残ることになります。そのためには、まず多くの人が建築士を知ることです。
 「This is an ARCHITECT」
 建築士は何をしてくれるのか?どのような技能をもっているのか?何をしようとしているのか?少しずつでも考えてみたいと思います。

【みぞぶち・ゆうこ】

一級建築士・インテリアコーディネーター

住宅問題コンサルタント
消費者に対するすまいづくりアドバイザー
木造住宅を取り扱う様々な書籍の執筆
十文字学園女子大学短期大学部非常勤講師
東京建築士会女性委員会委員 他

新日本製鐵蠏築事業部にて立体トラス設計、海外プロジェクト設計などを担当。その後、蟷埀坤魯Ε献鵐亜プランニングにて住宅技術部門の調査研究並びにISO、知的財産権などの業務情報管理を担当。この間のおもな研究テーマは、新しい木造構法の開発、住宅の性能評価、住宅ストック活用、LCC適正化、住宅の耐震化など。平成17年3月に退社・独立