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住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

どんな家にしたいですか? -設計の進め方その1-

寺山建築工房 一級建築士 寺山 実
((社)日本建築家協会・関東甲信越支部 建築相談委員会)

写真:寺山実氏

建築家との打合せはそんなに難しくありません。

「どんな家にしたいですか?」は漠然とした質問です。でも、何らかの基準から「こんな風な家にしたい!」と思うことは重要でしょう。そしてそのイメージが湧いてきたら家造りの始まりです。打合せでの建築家はクライアントの意見に耳を傾け、専門知識と経験による独自の解釈により建物の設計を進めて行きます。その過程でクライアントは少しだけ注意深くなれば大丈夫です。

 次に、建築家とクライアントA氏との打合せの①「クライアントの企画」から⑫「実施設計終了」までの流れを簡単に整理しました。それぞれの場面のポイントも合わせてご参考にしてください。

Ⅰ クライアントA氏の場合

①クライアントの企画

私のクライアントA氏は2年後の完成をめざして、海を見渡す高台に住宅を建てることを考えています。予算内で夫婦と娘の3人がゆったり暮らせる家が希望です。

企画はすべての始まりです。

②建築家の選定

A氏は私の手がけた住宅を機会あるごとに見学しています。時には工事中の現場や数年経過した住宅もあります。私も住宅を見ていただけることは嬉しいことです。住宅を前にしての話は考え方やイメージがより具体的になります。さらに、A氏にとっても職人や住まい手の話を聞くことは新鮮で楽しいことです。そして、お互いの信頼感も増します。

住宅を見学してイメージの共有化を図りましょう。また、お互いの信頼関係は大切です。

③基本設計:クライアントからの与条件(1)

初夏の晴れた日、私はA氏のご家族と高台の敷地へ向かいます。そこは海岸通りから坂道をあがった公園の隣です。A氏との打合せの始まりはよい風と遠くの半島の景色の眺めを建物に取り入れたいという話からです。また、週末には海岸線にあるサイクリングロードを走っているので、ロードバイク2台の収納と、雨天のためのサイクルトレーナースペースがA氏の希望です。台所から海を眺めることができ、居間を気持よくするためにも、使いやすい納戸と、雨天でも洗濯物が干せるスペースが奥様の希望です。

敷地の立地状況の把握をしっかりしましょう。立地状況から家のテーマが見つかるかもしれません。

④設計監理契約

敷地状況、法的条件等から簡単な計画案を作成し、おおよその規模、工事費、設計監理期間そして設計監理報酬額を算出します。それらを私の事務所でA氏夫妻に説明を行い、A氏のご承認を受け、建築設計・監理業務委託契約書を取り交わします。

過程について責任を持つのが委託契約です。

⑤基本設計:クライアントからの与条件(2)

夏の終わりに近づいた頃、私はA氏の自宅に伺い多岐にわたる要望についての打合せが始まります。A氏より3ページの要望書を手渡され、そこには家作りへの思い、建築予算そして「私たちの理想の家の要望」が十数項目にわたってまとめられています。その中の抜粋が次に示す項目です。

  1. [冬暖かく、夏涼しく]:夏でもエアコンは使いたくないです。ランニングコストのかからない方法で、冬も暖かい工夫をして欲しいです。私も犬もアレルギーがあるので、結露や建材に考慮していただきたいと願っています。
  2. [メンテナンス等]:メンテナンスとランニングコストのかからない工夫をお願いします。
  3. [キッチン]:お菓子作り用の小さな大理石を置くカウンターとお菓子の型を収納する浅い引出し3段、お米を冷蔵保存するクールライスストッカーそして冷凍庫の設置スペースを考えてください。ガスコンロはグリル無しです。その他は機能的で使いやすくあれば良いです。
  4. [書斎]:二人用の机と大きい本棚のあるコーナーで調べ物や読書を楽しみたいです。
  5. [寝室]:セミダブルベッドを置きます。風通しが良くウォーキングクローゼットが併設されていれば使いやすいと思います。
  6. [ウッドデッキ]:庭にはハーブや実の成る木を植えたいと思っています。居間からバリアフリーでつながるウッドデッキで休日は朝食をとりたいです。

要望を整理して文章で伝えましょう。
要望の程度が伝わるような表現を心がけましょう。 


設計の成功の要因は二者択一の積み重ね回数に依存すると言っても過言ではないでしょう。その結果、最終的に物理的に、またコスト的に、すべてが盛り込まれるとは限らないかもしれません。


打合せ議事録は建築家が記録します。

 
⑥基本設計 :コンセプト(1)

 晩秋のころ、住宅の基本設計と簡単な模型を携えてA氏のお宅を訪ねます。コンセプトは「どこからも海への眺望が十分楽しめる家」です。基本的な考え方は好意的ですが、守りの形が家の原型ではないかと考えているA氏にとっては少し開放的過ぎるのではないかと懸念があります。

その後の打合せの中で、全面的な海への眺望を求めるのではなく、大小のピクチャーウインドウ的な眺望が欲しいことにA氏自身が気がつき、もう少し海への眺望を制限するような形の案を考えることになります。

この段階での部分的な手直しは避けましょう。コンセプトの練り直し(フィードバック)をお願いしましょう。

⑦基本設計 :コンセプト(2)

新しい年を迎え、最終的に私の提示するコンセプトは高台にウッドデッキを取り込む筒状の箱を置き、その空間に合わせて開口を穿つものです。コンセプトが明確に理解でき、建物の骨格を検討するための図面と模型で検討をします。各室の構成や使い方のイメージも決まり、この時点でA氏は家の全体像が明確になったと感じています。

コンセプトを怠ると、単なる使い勝手等の修正だけになり、愛着の持てる家にならないでしょう。

⑧基本設計:材料や設備計画について

A氏からの無垢材と石油系製品との違いについての質問には、サンプルを手に取りながら両者の質感と経年変化の違いを説明しています。構造材である桧や杉でも60年成や年輪の密度によって木材の強度は異なることや、なるべく比熱の大きな材料で仕上げることが、安全と人に優しい家になると説明し、様々な材料選定についての打ち合わせが行われます。また、この時点では大まかな色彩計画を説明するにとどめています。というのは、色彩は実際の建物に近い状態で選択するのが好ましく、仕上げ工事に併せて色彩計画を作成し、実物サンプルで最終決定をするからです。

私が設計している建物の多くの暖房設備は蓄熱暖房としています。少ないエネルギーで常時全室暖房暖の利点と、その為にも建物の隙間風をなくす工夫を説明します。また、風通を考慮し、中間季を快適に過ごし、中間季が長くなるような家造りを提案しています。

仕様材料は実物サンプルで比較検討しましょう。設備機器はメーカーショールームにて建築家に説明を受け確認することを勧めます。
建物の高断熱化や気密化に伴い暖房設備の選択肢が増加しています。

⑨基本設計:検証

A氏はコンセプト時に検討した配置構成を再確認します。居間と玄関の家具の仕切り方も空間の広がりに好感を待っているようです。居間とダイニングやキッチンスペースも開放的で気持のよい空間になると思いますが、エネルギー的、来客時のことを考えて居間との仕切りが気になります。私はA氏の戸惑いのある部分や、生活の仕方による機能上の問題について一緒に検証し改善すべき所は改善します。打合せの結果、コンセプトの持つ「癖」はあえて住まい手が住みこなすのも楽しいものとなりました。もし、A氏が「癖」を改善する方を選択する場合のように、フィードバックしなければならないかと思う瞬間や幾つかフィードバックした場面もあります。実際、工事にかかってからでは影響が大きいですが、図面上でのフィードバックは影響範囲は小さいです。

機能的な項目は生活条件の変化や、考え方で対応が異なるでしょう。おおらかな感覚や実体験を通して考えることを勧めます。

⑩基本設計:確定

私は前回までの打合せ内容を基本設計図書として配置図、仕上げ表、平面図、立面図、断面図及び設備計画図と概算予算書をまとめ、A氏への説明、承認を経て、基本設計の確定となります。基本設計におおよそ半年の期間がかかります。

建築家とクライアントの設計に関する打合せは基本設計でほぼ終了します。

⑪実施設計開始

基本計画に基づいてデザイン、ディテール、構造、電気設備、機械設備そして外構等について、具体化出来るようにさらに詳細に検討を重ねます。この過程で問題があるようであれば、基本設計の部分的な修正が必要かもしれません。その場合にはA氏を含めての打合せになります。検討結果は随時実施図面へ整理されまとめあげられます。

実施設計から基本設計へのフィードバックは出来るだけ避けた方が良いでしょう。

⑫実施設計終了

おおよそ2ヶ月後に、実施設計図書(仕様書、各種伏図、平面詳細図、矩計(かなばかり)詳細図、各部詳細図、展開図、建具表、外構図、各設備図)を携えてA氏宅を訪問し、実施設計図書の説明を行い、承認をいただいて、施工業者選定についての話し合いになります。

実施設計は施工業者への指示書であると同時に見積の根拠でもあります。

 

Ⅱ クライアントH氏の場合

私が実際に設計した住宅を平面図の変化を中心にまとめています。

①クライアントからの条件

車5台の駐車スペースの確保がクライアントH氏の絶対条件です。また、敷地は道路幅員が4m未満のため、杭打設重機は小型で杭施工費も押さえる必要があります。

予算と所要室の提示もあります。

②建築家からの提案

私の提案はコンパクトな構造で住宅部分を2階に持ち上げることです。1階に鉄筋コンクリート(RC)の壁をコンパクトに配し、2階床と屋根の梁を軽量の鉄骨とし建物重量を軽くする案です。(構造透視図参照)平面図:RC壁は黒く塗りつぶした部分。

外壁と屋根をガルバリウム鋼板、床を鋼製とし軽量化を図っています。

③第1回目提案

1階:RC壁は6ヶ所。2階:RC壁は8ヶ所。平面計画:構造上東西の両側と南北ににバルコニーを配置しています。

④第2回提案

1階:RC壁は4ヶ所。2階:RC壁は4ヶ所。平面計画:構造上東西の両側にバルコニーを配置し、所要室を割り当てています。

⑤第3回提案

1階:等間隔のRC壁は4ヶ所。2階:両側のRC壁は2ヶ所と中央の鉄骨の柱4本。平面計画:バルコニーを建物の一部として取り込み、比較的広い寝室を2室とする。

第1回から第3回までは平面計画と構造が同成り立つかのスタディです。平面計画は柔軟に考えていて、可能性を探っています。

⑥第4回提案

1階:等間隔のRC壁の4ヶ所。2階:両側のRC壁の2ヶ所と中央の鉄骨の柱4本は変わりません。平面計画:居間と食堂を広くとり、台所を中央に配置する。寝室の両側から使える広い納戸を配置することでプランがまとまります。

竣工時と異なるのはトイレと洗面所が北側の窓側になったことです。

 

Ⅲ まとめ

構造概要図クライアントにとっての「設計の進め方」は「建築家との打合せ方」だと思います。①企画 ②基本設計 ③実施設計の流れは変わらないにしても、A氏のように立地状況と生活のイメージを模索することから始まる場合と、H氏のように5台の車という物理的な条件から模索する場合とではおのずと進め方に違いがあります。100件の住宅の設計があれば100通りの進め方があるでしょう。しかし、どんな進め方にせよ、それぞれの生活を内包する空間を作ることが目的です。平面図だけの理解ではなく、空間的な把握をイメージするように心がけてください。そして、日頃から建築に興味を持っていただいて、信頼関係の結べる建築家とすてきな住宅を作り上げてください。

平面図
 

【てらやま・みのる】

一級建築士 登録建築家 埼玉弁護士会住宅紛争処理委員
寺山建築工房にておもに住宅・マンションの設計・監理・調査・診断など

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※ 今年度3月までのこのコーナーは、日本建築家協会の建築相談を担当している建築家の方々からご意見やご提言を掲載する予定です。

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