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巨大地震に思う

A PROJECT 建築デザイン事務所 代表  縣 美樹

写真:縣美樹氏

地震国、静岡の設計事務所として

昔、テレビCMで「近頃『万が一』が『千が一』くらいに感じる、、、」というものがありました。
最近の大地震を考えるとその通りだなと思います。チリ、ハイチ、スマトラ、中国、、、地球規模で考えてみると大地震は切れ間なく起こっている感じがします。

私の設計事務所は静岡県西部にあり、地震ハザードマップでは「超危険」に区分されるエリアです。
この地域は東海地震への備えが叫ばれ続けて20年が過ぎ、いつ大地震がきてもおかしくない状態なのです。今回は、静岡県の設計事務所としての木造住宅の耐震について考えたいと思います。

私たちが大地震と言って、まず思い出すのは阪神大震災ではないでしょうか。
1995年、たった20秒弱の地震で約18万棟もの建物が全半壊しました。その大半が木造住宅で、犠牲者の多くが住宅の下敷きになりました。5,500人をこえる死者のうち、圧死が89%、焼死が10%との報告があります。なぜこのように大きな被害となったのでしょうか。

  1. (1)在来木造住宅の中で、大正〜戦後に建った古い住宅の倒壊が多い。
  2. (2)2階部分が1階を押し倒した倒壊が多い。(1階の壁が少ない)
  3. (3)土葺き(屋根に土を載せて瓦を葺く)の重い屋根の建物に被害が多い。

などといわれていますが、要は古い家が多かった。倒壊した古い建物の多くが建物の耐震基準に即していなかったということでした。

建物をどのようにつくるかは建築基準法などの法律で定められ、地震に対しては「耐震基準」というものがあります。建築基準法は昭和25年に制定され、くり返される大地震の度に強化改正されてきました。阪神大震災当時は昭和56年の大改正が元となった「新耐震基準」といわれる基準がありました。
  これは過去の地震の教訓から、主な倒壊原因として耐力壁不足があげられたため、地震によって生じる水平力に対し壁を抵抗要素として耐震性を進化させたものです。(耐力壁とは、地震や風などの横からの力に抵抗する能力をもつ壁のことです。)

さらに阪神大震災を経験することにより、耐力壁の量だけでなく「壁のバランス」と「柱・梁接合部の強度」が重要だということがわかり、日本の住宅の耐震基準はより進化をとげました。それが平成12年のことです。

しかし、残念ながらこの昭和56年の新耐震基準すら満たしていない「既存不適格」と言われる住宅が現在、全国で1000万戸以上あるのです。耐震基準は新しく建てる建物に対する基準のため、それ以前に建てられた建物には適用されないためです。阪神大震災クラスの揺れでは、とても危険な耐震力不足の家が全国に半数以上あるのです。これらの住宅に住む方には、自治体の補助などを利用して是非耐震診断・耐震リフォームをしていただきたいと思います。

がっちりと固めるべきか、しなやかに揺らすべきか

木造住宅には、柱で支える「軸組工法」と壁でもたせる「壁式工法」があります。
 軸組み工法は建物が「しなる」ことで、壁式工法は壁を「固める」ことで地震の揺れに対応し、どちらも木造の耐震の考え方として認められています。
 では、2階建ての住宅の場合どちらがいいのでしょうか? 私の個人の考えとしては建物を面で固めてしまう方が安全だと考えています。建物重量の軽い木造住宅の場合、薄い合板で建物外周をしっかりと固めることが出来るからです。何より、地震での建物の変形を抑えることは地震の後の損傷が少なく、建物として利点が多いと考えています。

静岡県で開発された「究極に固める」耐震工法

ロケットテラ工法住宅

写真はロケットテラという工法を採用して設計した住宅です。出雲大社など日本の社寺建築に代表される「さくりはめ工法」からヒントを得て、平成元年に静岡で開発されました。「さくりはめ」とは、柱の間に羽目板を落とし込むもので、これを壁面の強度向上に結びつけたアイデアがロケットテラ工法です。
 内装にも特徴があり、構造体である木のパネルがそのまま内装になります。
 コストは若干上がりますが究極に建物を固める工法です。地震の多い静岡県に住んでいる為、木造住宅で究極の強さを求める方にはこの工法をお勧めし、設計してきました。筋交いの厚みで板面が入り、地震で揺れても柱が曲がりたくても曲がれない、倒れたくても倒れることができないのが特徴です。

このパネル自体は建築基準法で定めている耐力壁ではありませんので耐力壁はこれとは別に取り付けてあります。
 基準法で定めている以上に力がかかり耐力壁が壊れてからも、内部の落としこみ板壁が力を発揮する2重の守りになっています。

さくりはめ壁
「さくりはめ壁」の構造のイメージです。
右側の柱の溝に、壁パネルがはめ込まれています。

実大実験を行いました

このロケットテラ工法は2006年5月につくば市の防災科学技術研究所で公開破壊実験が行われました。
 最大加速度は1600ガル。阪神・淡路大震災が818ガル程度ですので、その約2倍の加速度が建物に与えられました。
 しかし何度揺らした後でも歪みが元に戻ってしまいます。弾性力が大きく、壁紙が少し破れはしても、躯体にはなんの損傷もありません。じゃあどれくらい揺らしたら壊れるのか? 壊れるまで実験を続けよう!ということになり2日にわたり実験を10数回繰り返しました。

実験の模様実験の模様
実験の模様

・・・そして、苦情が来ました。

地震研究所で最大パワーで何回も揺らしていたらご近所から家が揺れると苦情電話がきて実験は終了したそうです。
 実験に使われた建物は今でもその会社の事務所として使われています。
 実験後の住宅が再利用できるということは大地震の後もその家の中で生活することが出来るということですね。

建物の余力(あまりの強度)はどの程度必要?

地震を目の当たりにして誰もが思うことは、「地震が起きても、身の安全が確保され、地震後も安心して自分の家で生活したい」ということではないでしょうか?

そのためには、耐震基準以上の住宅を考えておく必要があります。
 国の耐震基準は、基本的に人に危害が及ばないだけの強度を求めており、大地震での変形は許容しています。震災後には、「倒壊はしなかったが、家が傾いたり、屋根がずれたりして、修繕した」「半壊したため建物を解体し、新築するはめになった」など、程度の差こそあれ家の修繕を余儀なくされ、経済的に大きな負担を強いられることになりがちです。

普通に考えると、地震で壊れるような建物では困りますよね。しかし 、どんな地震に対しても軽い被害でおさまるほどの強度を法律で定めるのは、経済的にも現実的ではありません。住宅は個人の財産であるため、そこから先は個人の裁量とされているのです。必要以上の強さを設計余力といいますが、これは家を建てる人が求めてお金を出して、はじめて成り立つのです。

地震に強い住宅を考えるとき、住む人の安全だけでなく、こうした財産的被害の防止策も一考したいものです。震災後、全壊、半壊での「住めなくなるダメージ」は大きいのです。
 修繕の負担を少しでも軽減できるようにするのも経済的な地震対策なのです。

地震に強い住宅の室内
メリハリをつけて耐力壁を配置する事で開口部を大きくとり、デザイン性と耐震性を両立も可能。

【あがた・みき】

A PROJECT 建築デザイン事務所 代表

1995年 昭和女子大学生活美学科卒業
1997年 米国政府公認建築士事務所 大橋諭アーキテクチャー入所
2005年 同事務所退社
2005年 A PROJECT 建築デザイン事務所設立

現在、「天竜ひのき」の木造住宅の海外進出に向けて活動中。

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