住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

住まいのお手入れを考える
〜お手入れしないと大変なことに?〜

一級建築士・インテリアコーディネーター 溝渕 木綿子

3回に渡って書かせて頂いた私の担当も今回で終了です。建築士、終の棲家と、これまでの2回は少し硬いお話でしたので、最後のテーマは身近な話題、住まいのお手入れについてお話ししようと思います。
 ここで解説するお手入れとは、いわゆる掃除などに限ったものではありません。日常の掃除、大掃除も含め、日頃の使用、劣化防止の措置、不具合の点検、修繕などのいわゆる維持管理と言われるものについて、幅広く考えてみたいと思います。

毎日のお掃除

お掃除はあなたが住まいと向き合う時間

「皆さんは日々のお掃除を、何のために行っているのでしょうか?」
改めて聞かれ、一言でまとめると快適な生活を過ごすためということになるでしょう。その快適の意味も、身体の健康や精神衛生上の気持ちよさの意味にとどまらず、喘息防止や風水の教え(?)など、様々な意味がある人もいることでしょう。いずれにしても、毎日、または短スパンの定期的に、ほとんどの人は住まいを当たり前に掃除します。
 この日常のお掃除には、実は他にも意味があるのです。それは、お掃除をきっかけにして、住まいの中の様々な部分に注目するということです。お掃除をすれば、床を見つめます。大掃除で窓ガラスを拭けば、窓枠を、ガラスを、敷居を見つめます。手で触れます。言ってみれば、あなたが住まいと対面する瞬間、それがお掃除の時間なのです。
 例えば、わかりやすく顔をイメージしてみましょう。ニキビができた、しみが増えた、しわがある、クマがある、乾燥している・・・・・・(悲しい例えですが)こうした顔の変化に気づくのは、顔を洗っている時、お化粧している時(女性の場合)が多いのではないでしょうか。(たまに電車の窓に映る自分の顔に愕然とすることもありますが。)  そして、早く気づけば化粧品を変える、睡眠を多くとる、エステティックサロンへ行くなどの早期の対策がとれ、致命的になる前に治すことも可能です。
 つまり、どんなことでも、小さな変化に気づくことができるのは、きちんと向き合ってお手入れをしている時間が最適なのです。もし、今まで何も考えずに掃除機をかけていた方がいらしたら、今日はお掃除の時間は「ハウスドクター」が診察するつもりで、床や壁を見つめてください。フローリングの浮き、壁のしみ、畳の焼け、床のへこみ、たわみなど、小さなことでも見つかったら、あなたは名医です。あなたの住まいの小さなSOSを見つけてあげるのは、あなたしかいないのです。

早く見つけて早く治す

住まいの維持管理について書かれた本を見ると、必ず「不具合を早期に見つけ、早期に対処することが肝心!」と書かれています。住まいも人間も同じなのです。少し具合が悪いかなという段階で、勇気を出してお医者様に診ていただけば、大病を誘発する前に治癒します。結局、寿命も延びますし、治療費も少なくて済むわけです。
 毎日のお掃除の中で、床や壁や天井や窓をしっかり診断していると、いつかSOSに気がつきます。「あれ?何かおかしい」と思ったら、じっくりと観察してみましょう。そして、その段階で専門医(専門家)に相談すれば安心です。あるいは、身近に相談できる専門家がいない場合には、住まいの維持管理の本(※)で、まずは症状と対策を調べてみましょう。
 維持管理においては、住まいを点検し、不具合を早期に発見することが大切ですが、ほとんどの部分の点検は、日常のお掃除でまかなえてしまうのです。(屋根とか、床下とか、お掃除では絶対に見えない部分を除いて。)一石二鳥ならぬ一掃除二効果というわけです。

手前味噌で恐縮ですが、一般財団法人住宅金融普及協会が出版している「住まいの管理手帳」はイラストも多く、フルカラーでとても読みやすい本です。財団のHP上で購入でき、1冊860円(マンション編)(戸建て編)と価格もリーズナブルです。(不肖ながら私が編著を担当しました。)

点検・修繕

住宅を使い捨てている?

もし使い捨てのハンカチがあったとしたら、多くの人は「もったいない」という感覚に捉われるでしょう。洗ってまた使う手間が無く、すぐに捨てることができる手軽さは、それだけコスト高につながるからです。あなたは、「お金がもったいないから、ハンカチを洗う手間くらいはかけましょう」と思いませんか?
 1枚千円足らずのハンカチですら、使い捨てはもったいないという感覚が働くのに対し、何千万円もかけて手にした住宅の使い捨てなんて、「まさかあり得ない」と思いますか?しかし、実際にはそれに近いことが起こっています。大切に使わない、点検しない、修繕しないの3つの無いが揃うと、住宅はほぼ使い捨て状態になってしまうのです。

構造体と仕上げの部分は分けて考える

住宅の構造体(柱や梁、床や壁など)は、通常の設計・施工がなされていれば、早急に劣化していくことはなく、ある程度の長期の寿命を持っています。一方で、仕上げの部分の耐久性は構造体よりも寿命が短く、限界があります。仕上げの部分をきちんと点検し、修繕・手入れしておくことにより、構造体を守ることにもなります。
 構造体の点検や修繕の判断は非常に難しく、専門家でなければ無理な範囲も多いので(外観から見えないことも多いです)、設計者や建築工事をしてくれた施工者などと「メンテナンス契約」を結んでおくのも得策でしょう。

新しい時代を見据えて

住宅はあなただけのもの?

昨今、「住宅ストックの整備」などという言葉をよく耳にするようになりました。住宅に限らず、世の中は大量生産と使い捨て消費を繰り返す「フロー重視」の時代を終えて、限られたものを有効に再生しながら循環させていく「ストック重視」の時代に入りました。循環型社会の到来です。  住宅ストックは、言葉を変えると中古住宅です。住宅政策の中心も、すでに中古住宅に移行しつつあります。あなたの住まいも日本にとって貴重な住宅ストックなのです。
 日本では住宅に対しては個人の資産という意識が強く、社会的な資産でもあるという認識は薄いのですが、まちを形成していく要素でもあり、立派な社会資産です。循環型社会では、あなたの住宅もこれから長期に渡って大切に保持していくことが求められ、さらに市場で商品として流通することも容易に想定されます。
 これからは住宅があなたの資産でもあり、社会全体としての貴重な住宅ストックでもあることを、しっかりと認識していただきたいと思います。

住宅の価値

中古住宅の流通市場が整備され、もっと気軽に中古住宅を売却し、住み替えるような時代がやってきた時に、お手入れをしていない住宅はどうなるのでしょう。おそらく、物理的な劣化も進んでいるために市場での価格評価も低く、市場で需要がなく、価格をさらに下げても売れないという状況に陥るおそれがあります。
 維持管理の中には、お掃除、点検や修繕などのお手入れだけではなく、いかに毎日大切に使っていたかということも含まれます。大切に使っていた住まいは、それが伝わります。幸せなイメージや健全なイメージを与えます。さらに、維持管理の記録や、購入時の説明書や様々な書類が全てきちんとファイルされていれば、さらに印象が高まります。
 あなたの今の住まい方、お手入れの仕方が、将来何百万円、何千万円の差をもたらすかもしれません。
 維持管理は、今後どのくらいの住宅が使えるかという「使用価値」とともに、市場では、いくらで売れるかという「資産価値」の双方に大きく影響するのです。そして、今後はその2つの価値を照らし合わせて考える時代になったのです。

余談

お掃除というと思い出すのが昔の記憶です。小さい頃、姉妹の中で私だけが自分の部屋の掃除が苦手で、いつも叱られていました。それでも私が掃除をしないので、ついに母と私の根比べとなり、いつも根負けした母が私の部屋の掃除をしていました。
 成人して、こうして住宅問題のコンサルタントになり、維持管理に関するセミナーなどで皆様に「お手入れの大切さ」をお話する度に、「こんな私に話す資格があるのか?」と自問しています。今にして思えば、あのしつけは家庭における住教育の第一歩であったわけです。納得。

みなさま、3回に渡ってのご高覧ありがとうございました。

【みぞぶち・ゆうこ】

一級建築士・インテリアコーディネーター

住宅問題コンサルタント
消費者に対するすまいづくりアドバイザー
木造住宅を取り扱う様々な書籍の執筆
十文字学園女子大学短期大学部非常勤講師
東京建築士会女性委員会委員 他

新日本製鐵蠏築事業部にて立体トラス設計、海外プロジェクト設計などを担当。その後、蟷埀坤魯Ε献鵐亜プランニングにて住宅技術部門の調査研究並びにISO、知的財産権などの業務情報管理を担当。この間のおもな研究テーマは、新しい木造構法の開発、住宅の性能評価、住宅ストック活用、LCC適正化、住宅の耐震化など。平成17年3月に退社・独立