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住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

南の住まい方を見直してみませんか

菅原律子設計事務所 +itiS  菅原律子

菅原律子氏

羽田から沖縄へのフライト便に乗るたびに、「建築の仕事に就いて良かったな・・」と、感じることがあります。普段は東京近郊での仕事が多いのですが、時折、故郷沖縄県でのプロジェクトや個人住宅の設計ご依頼で、羽田から沖縄へ飛ぶ事があります。
 東京では現在、ある特定建築物の特別事業、CO2削減委員会にメンバー出席したり、省エネ住宅の設計に取り組んでいたりしていますが、南国の住まい方には古くから光や風や湿気に対する工夫や知恵が施されていて、今後亜熱帯化が予測される日本全体の住まい作りにもヒントになるかと思います。

伝統的な民家形態

  • ・敷地周囲を石垣と屋敷林で囲み、台風の防風林と夏はその林を通して風を呼び込む。
  • ・南側を大きくウナー(庭)空間とし、そのウナーに向けてアマハジ(軒を出し柱で支える、いわばコリドー空間)で夏の日差しを遮る。更にそのアマハジに沿って間口の広い縁側が繋がる。またその縁側に沿って6畳の二番座(仏間)6畳の一番座(客間)が繋がる。つまり、沖縄の伝統民家には「玄関」がなく、このアマハジ、縁側が近所の方達との語らいの場であり、家族もくつろぐ一番快適なリビングスペースです。
  • ・建物の平面プランは北側には裏座(個室)が並び、南側間口の広い縁側に対して開口が小さく、これは南国の思ったより厳しい1月2月の北風強風に配慮したものです。
  • ・基本的に平屋で方形型の屋根は小屋裏が高く、またチムニーのような小屋裏換気も活用し、通風が良く考えられています。床下は縁側下から北側へ向けて風が通るので湿気が抜けます。

しかし、このような伝統的な木造民家も戦後の急速な復興の前には鉄筋コンクリート造の住宅に大きく変化せざるを得ませんでした。その急速な復興の中で失われつつあった南国の風土を活かした家づくりを、また平成3年頃から改めて「見直していく」という沖縄県内での動きが出ています。沖縄の歴史、文化、風土に育まれたヒンプン(南側道路から敷地に入り、ウナーの前にある石垣の事で開放的な住宅内へゆるやかに繋げる役目、また悪霊払いの役目もある)、外周石垣、木造赤瓦住宅など自然型住まいづくりを目指し、機器のみに依存しない快適な住まい、街づくりの創造を掲げています。

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伝統を活かした現代家づくりの工夫

  • ・かつての平屋民家の特徴を取りいれて、現代ではできるだけ天井を高く、吹き抜け空間から小屋裏換気で通気をとり、RC造にも赤瓦を葺いて断熱効果を上げます。
  • ・アマハジ的空間の再現・・RC造の建物にパーゴラ+植栽で直射を避け、日蔭の提供。
  • ・RC造の壁量を減らし蓄熱を下げる為に、スリットや壁面の分割により陰影をつけます。
  • ・石垣、赤瓦、花ブロック(穴のあいたブロック)など地域素材で、地域らしさを演出。
  • ・花ブロックや格子ルーバーなどを壁面に用い、蓄熱回避と通風に配慮する。
  • ・かつて断水の多かった沖縄地方ですが、今でも雨水など貯水に対しての意識が高く、大抵の家では、屋根の上の水タンク、また地階などに雨水タンクを設置します。

伝統を取り入れた街並み作りや集合住宅

植栽の遊歩道
地区計画や建築協定などで、かつての民家の遊歩道や石垣、屋敷林が少しずつですが復活しつつあります。街区の敷地と敷地の間は車の通らないくねった植栽の遊歩道が続き、敷地境界もできるだけ植栽をしています。
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沖縄県では、かつての伝統民家の南縁側(玄関、リビング機能)を取り入れたり 隣戸の間を風が通り抜ける階段配置などをした南島型住宅の公営住宅で、風土を活かした集合住宅に取り組んでいます。

 
南の風土に根差した住まい方を取り入れた事例を4点、以下にご紹介をさせて頂きます。

分譲マンションプロジェクト基本設計(沖縄県浦添市)

小高い丘の建設地は海抜86mの眺望で地上14階建タワー棟2棟と、低層棟6戸を計画し、住戸プランは限りなく戸建て住宅の良さを持ち込もうと3方向に開口、通風に配慮しました。アマハジの良さを取り入れる為、ベランダの奥行きは平均2Mとり、日射の遮りと半戸外空間を広くとり、そのアマハジに向けてマンションながら各住戸の浴室に窓を付けることができました。

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E邸新築(沖縄県那覇市)

那覇市内で、建築協定により隣家と隣家の間には石畳の遊歩道が造られ、交差点にはガジュマルの大木が生い茂り、夜は石造りの街路灯が懐かしい風景を作り出すという区域での新築設計でした。木造二階建ての赤瓦葺き、個人邸です。最近では台風の被害や白アリ被害に恐れをなして大方RC造が多い沖縄にあって、建て主のご希望で木造住宅の設計への取り組みでした。東京近郊の木造建築よりかなりの高基礎です。これは台風の際の床下浸水の時などメンテナンスの際、人が通れるように配慮したものですが、当然風通しも良いものです。また、この基礎ですが、通常後から作る犬走りを同時に作ってしまいます。というのもできるだけ建物基礎と土面を遠ざけることで白アリから土台を守る工夫によります。

シンボルツリー…1階から2階デッキを抜け空に伸びる
シンボルツリー…1階から2階デッキを抜け空に伸びる

このお宅は建物の中心にシンボルツリーを植栽し、1階ダイニングから、また2階のリビングや寝室、その間にある中庭から涼をとります。このシンボルツリーは当然建物に屋根が無いわけですが、施工のゼネコンさんと協議して雨量の多い時期の為にオーバーフローを隣の駐車場床の溝までよび込み、それを外溝に排出するよう工夫しました。沖縄県では台風時は瞬間200ml/hの雨量で、バケツをひっくり返した程の水量となるのです。雨といえば、この木造戸建てでは一般木造用の窓サッシは不可で、水密性の高いビル用のサッシに変更となりました。左官仕上げの外壁も下地と仕上げの追随でクラックの入りにくいシラス火山灰の製品に変更したり、台風による水害、風圧などを考慮して、建材、施工方法にも独特の工夫を凝らしました。そういえば、かつて民家の赤瓦は風で飛ばないように一枚一枚が漆喰で固めてありました。

台風といえば、この個人邸の設計監理中、5回も遭遇しました。工期が6月〜11月というシーズン真っただ中というのもありましたが、まだ屋根が葺き上がっていないタイミングの時などに台風襲来!しかし現場は手慣れたもの、壁がとばないようワイヤーや添え木で固定し、ワイヤーは更に土中の重しに固定してさっさと現場から帰ってしまいました。

台風時、壁固定の様子台風時、壁固定の様子
台風時の壁固定の様子

O邸新築(東京都港区)

都心の西麻布での個人邸、RC造3階建てですが、沖縄風土の考え方を取り入れて、2棟間にスリット(渡り廊下)をいれて採光、通風、に配慮しました。リビングから奥行き2m40の半戸外空間を作り縁側のような長いベンチ、その後ろの植栽エリアには収穫のできる果樹や樹木がベランダに木陰を提供しています。リビングの暖炉を囲む石材は沖縄の石灰岩です。この石は切り出したまま野積みをすれば見慣れた沖縄の石垣塀ですが、磨いて壁や内装材に用いると、柔らかく温かい色調が他の石にはない雰囲気を醸し出します。

  • スリットを取り入れた東側外観
    スリットを取り入れた建物外観
  • リビング〜ベランダ
    リビング〜ベランダ

N邸新築(神奈川県川崎市)

沖縄の民家の赤瓦が見直され、今、RC造の建物にも屋根の外断熱材として多く用いられるようになりました。しかし、東京や神奈川県では荷重など地震災害の点を考えた時、軽量の土に生命力のある植物を植えることで屋根荷重を軽減しながら、うまく屋根外部断熱ができます。このお宅は雨水タンクを設置して庭の水撒きに利用しています。

  • 草屋根
    草屋根
  • くねった石畳と庭木
    くねった石畳と庭木

「南の住まい方」と言っていたのが、今、日本列島そのものが温暖化や亜熱帯気候へと移行しつつある現代、南国の風土をうまく生かした住まいの作り方が、機械やエネルギーに頼らない私達の生活環境を守っていく方法の一つだと思います。

【すがわら・りつこ】

沖縄生まれ。美大卒業後、商業空間〜住空間のデザイン設計を経て、平成10年一級建築士事務所ピトリ・ピコリから独立。

固定観念に囚われない、その人なりの家づくりを一緒に考えていきます。「家」は買うものではなく、 楽しみながら、悩みぬいて作り上げていくものだと考えます。構造強度など家の精度はもちろんのこと、省エネに配慮しながら “アート” や “色づかい” など、素敵な家をご提案します。
東京〜沖縄で活動中。「itiS」という実験PROJECTでは、櫻庭紀之氏とユニットを組み新しい空間創りを研究しております。

一級建築士・インテリアコーデイネーター

【公式Webサイト】 菅原律子設計事務所 +itiS

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