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住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

キッチン

一級建築士 李勝代

李勝代

昔、キッチンは料理をする作業場であって、家族のいるリビングからいちばん遠い、北東側に置かれることが多くありました。食品の保管の点ではとても理にかなった配置ではあったものの、決して居心地の良い場所とは、いえません。今でも、地方にいくとそういったレイアウトを見ることもありますね。

しかし、女性の社会進出や地位向上に伴い、キッチンの配置がリビングに近づき、セミオープン、オープンキッチンが、主流となってきました。
 ハウジングメーカーなど、ほとんどのスタイルで当てはまるほど、今は、このようなキッチンが主流になっています。

いっぽうで、クローズキッチンを求める方も出てきました。
最近のクローズキッチンは、以前の暗く寒い「台所」とは違い、明るく作業が楽で、お料理に集中できて、お客様を招きやすい…そんな利点に気づかれて「クローズキッチンも悪くない」と思われる方が増えてきたようです。

そんな、キッチンのお話を3つのプロジェクトを通してご説明しましょう。
「あっそうそう!」「こんなキッチンにしたいのよね」「ここはどうなっているの?」など、いろいろ感じていただけたらうれしく思います。

01.オープンキッチンのMプロジェクト

お子様が巣立ち、定年を迎え、第二の人生の再スタートを切るご夫婦二人のための「終の住処(ついのすみか)」を考えたプロジェクトです。
 奥様は楽しいことが大好き。キッチンも「カフェみたいなスタイルがいいわ」とおっしゃいます。

そんなコンセプトの中で、『大胆なダイニングテーブル付き、造り付けオープンキッチン』が出来上がりました。造り付けキッチンということもあり、細かな引出しなどは取り付けず、あとで奥様がお好きにカスタマイズできるようなデザインにしました。


ⓒ大瀧

キッチンが完成したときに「設計の打ち合わせのときはあまり大きく感じなかったのに、できてみるととっても大きいのね」と、驚いていらっしゃるご様子が印象的でした。


ⓒ大瀧

ただ、このキッチンができたのは、奥様の収納センスが高かったからです。とても上手に物の取捨選択をされるので、お引渡後、お伺いしたときもすっきりとカウンターの上が整理されていました。カスタマイズを楽しまれる方ですので、これからも、いろいろなアイディアをめぐらせていらっしゃるのでは、と想像しています。


ⓒ大瀧

作り、楽しむことの価値を教えてくれたキッチンです。

02.セミオープンキッチンのIプロジェクト

自営業を営むご主人、音楽家の奥様、お嬢様お二人と四人家族が快適に共存するための生活空間「生活の器」がコンセプト。敷地は、三方向が建物に囲まれた長方形。地下1階地上4階建てのコンクリートの箱を積層して都心に立体的に住まう生活空間を実現しました。


ⓒ大瀧

そんな住まいのキッチンは、日頃からお料理されることも多いご主人のこだわり満載です。まずは、長身のご主人に合わせたカウンターの高さ、食洗器の設置位置の高さなどがキーポイントでした。『高さ』は、キッチン設計には、重要ですね。


  • ⓒ大瀧

  • ⓒ大瀧

次に、バックボード。こちらはご主人自ら図面を引いて「こんなふうにしてください」と、ご要望をいただきました。細かな調整は必要でしたが、とてもスマートな収納ができあがったと思います。

そして、キッチンユニットは、既製品を使いました。工場製品のキッチンはとても優秀だと思っています。誤差も少なく、いろいろな機能を持った引き出しがあり、何万回と試験されているため故障も少ないのです。キッチンも消耗品、10年から15年で取り替えることもあるだろうから既製品で、というのも一つの考え方ですね。


  • プロデュース/ZAUSⓒ平野

  • プロデュース/ZAUSⓒ平野

そして、セミオープンにしているカウンターは、ダイニング側からは見えません。突然の来客があっても慌てずにすみます。なにより、キッチンに立つ人が孤独にならない。そこが、セミオープンキッチンの良さでもありますね。

03.クローズキッチンのSプロジェクト

3階建S造の改装プロジェクト。1階2階は賃貸アパート、3階はペントハウスとして、ご夫妻の居住空間に、三つのガラスの箱(トイレ・キッチン・洗面所)がテーマの全面リフォームのプロジェクトです。
 キッチン設計のお打ち合わせのとき、一人娘の黒猫ちゃんがとっても食いしん坊で、奥様がお料理していると寄ってきてつまみ食いして困っていらっしゃると伺いました。そんな黒猫ちゃんのためにもクローズキッチンが必要となりました。

しかし、全面リフォームの難しさは、既存の窓の位置を変えられないことです。キッチンを光の通らない素材で囲うと、必ず、陰ができてしまいます。
  今ある窓の光を部屋全体にめぐらすために、ガラスで囲うことにしました。


ⓒ阿部

でも、ただ囲うだけでは、風が抜けなかったり、どことなく閉塞感があります。ガラスの箱の一部に風を通す開口を作りました。この開口を利用して、奥様の身長に合わせた水切り棚をフルオーダーで取り付けることにしました。


  • ⓒ阿部

  • ⓒ阿部

このときも、奥様から細かな寸法を頂いたりして、綿密なお打ち合わせとなったことを、よく覚えております。

そして、キッチンユニットは、セミオープンキッチンのIプロジェクトと同じく既製品を使用しました。キッチンユニットの後ろは、以前から使っていらしたシェルフと、冷蔵庫、豆の保管用のワインセラーを設置しました。


ⓒ阿部

サイズを測りきちんと納まると、それだけで、気持ちの良いものです。こちらの奥様もオープンキッチンのMプロジェクトの奥様同様、収納がプロ並み。キッチンの引き出しを開けると整然と並んでいる調味料類など、私もとても勉強になりました。


以上3つのキッチンのデザインと制作とを通して、個々のライフスタイルに合わせてキッチンを選べる時代がきたように感じています。

キッチンは、女性の社会進出や地位向上と密接に関係していますが、今、ようやく自由な選択ができる時代がきたのかも知れませんね。同じ女性として、建築家として、選択肢が増えるということは、より自由になれること。うれしい進展です。
 もちろん、キッチンは女性だけのものではありません。どんどん男性もキッチンに入ってください。お互いに使い勝手を確かめながら、意見を交換して、次なるキッチン目指していきましょう。

【り・かつよ】

浜松工業高校建築科卒
水野設計事務所、計画工房古山建築設計事務所勤務を経て1994年 DESIGN OFFICE opposition を金 富雄と共同主宰。
一級建築士として、住宅レベルから都市的レベルまで、内部・外部空間のデザインに幅広く従事。

家作りの時、THREE IN ONE(スリー・イン・ワン)の考え方を合言葉に、クライアント・建築家・施工会社が、同じ目標に向かって、コラボレーションの関係を作り上げて行くことを、とても大切にしています。三つの関係のバランスがとれた時、納得できるオンリー・ワンのプロジェクトが可能になるからです。私達は、それぞれの素材(予算・要望・工法・材料等)を組合せて、依頼主にとって、最善の料理(生活の器)を作り上げて行くパートナーでありたいと、常に、心がけて設計しております。
そして、ガラス素材を使った空間創り得意としています。