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ガラスと住宅(無限の可能性)

金 富雄

金富雄

ガラスの素材は、今日多岐にわたって私達の生活の中で使用されています。
以前は、ガラスと言えば、サッシの窓枠にはめ込む(インフィル)素材としてのみ住宅では使用されてきました。

しかし、この10年の間にガラスの多様性が住宅に大きな変化をもたらしています。今回はガラスの素材が、住宅空間にもたらす変化と可能性について我々事務所の実例を上げながら、説明をして行きたいと思います。

近代建築は、ガラスの進化と共に、劇的に変化しました。
 開口部を小さくしかとれなかったのが、今では、ガラスだけで建物全体をそっくり包んでしまう(カーテンウオール工法:構造の床/柱/梁の外側にガラスの壁をカーテンのように、独立させて取り付ける建て方)事も可能になってきました。

midtown

最近の大規模な商業ビルの開発(例えば、六本木のミッドタウン等写真1)は、建物全体が独立した仕上げの壁で出来ています。主要な構造体から切り離されて外壁の面を支えるスキン(皮膜)が独立する事ができ、建物の表情がかなり個性的なものが増えてきました。東京の新宿にあるモード学園のコクーンタワー等(写真2)は、表面のデザインが繭糸が表現された有機的な形をしたとてもユニークな建物です。

日本の住宅は、大手のハウジングメーカーによる普及が圧倒的に多いので、ガラスは規格品のサッシや規格サイズの開口部を透明化する為に使用されてきました。しかし、住宅発注者の年齢が若返りを続ける中、ガラスが持つ多面的な可能性に、デザインを考える建築家だけではなく、エンドユーザーであるクライアント側からも、様々なニーズが寄せられように近年なって来ました。

機能面で考えれば、今の住宅では、寒冷地のみならず、ペアガラス(二重ガラス:ガラスとガラスの間に真空の空気層)のサッシが価格的には標準のシングルガラスサッシと殆ど変わらないレベルまで普及しています。シングルガラスの熱効率の悪さ(ガラス壁面の結露)が一気に解決され、開口を埋めるだけのガラスが、生活者の日常生活を演出する建築的な要素として活用され始めている。どんな光を家の中のどの場所に入れたいのか、自分の生活イメージにあった設定を建築家と恊働で作り上げるケースが近年急増しています。

我々の事務所でも、十数年前からガラスを積極的に住宅に持ち込む努力を続けて来ました。外部に面した開口部だけではなく、生活の色々なシーンで演出ができるインテリアにもガラスの多様性をいかした空間作りです。

初めて取り組んだ溝型ガラスの壁:銀座の画廊で大成功!

最近建築界で良く使われる様になったのが、溝型ガラスと言うコの字型のガラスユニットです。幅266ミリで、左右に折り返しの幅60ミリの袖壁があり、長さは最大で5メートル。基本的に上と下に枠を設置して連続して並べ、シール材によって気密性と構造的な強度を保つ事ができる、非常に優れたユニット材です。10年程前に、銀座の画廊のインテリアに採用したのが始まりで、以来光を通す間仕切り壁として、インテリアの重要な仕上げ材で我々のデザインに頻繁に登場しています。

銀座の画廊(下の写真3)では、有機的な曲線をガラスのユニットで、作る事が可能になり、ペンキで塗装の絵画展示の壁のイメージを根底からかえる事ができました。
 幅30センチ弱のユニットを平面的に角度を変えながらジョイントして行く事で、直線だけではなく自由曲線も描ける様になり、デザインの幅が増えました。

銀座の画廊

この溝型ガラスの間仕切り壁が、渋谷(写真4)と神田(写真5)にあるショールームのデザインに大きな影響を与え、さらに住宅インテリアへの転用を促してくれました。

光を通す間仕切り壁

一般的な住宅の間仕切り壁は、木の骨組みにプラスターボード(石膏ボード)を張って、クロスや塗装で仕上げます。我々が、ショールームや画廊で考えたガラスの間仕切りが、決して広くない日本の一般住宅の内部スペースの広がり に新しい方向性を演出できる可能性に着目しています。

先月、俳優、辰巳琢郎さんのBS朝日の番組で取り上げられた、S邸のインテリアに使用した三つの壁を実例として紹介します。我々が注目しているガラスと住宅インテリアの在り方を示唆しています。

トイレの箱:
壁、天井全てガラスで構成した、特別なプライベート空間。溝型ガラスに板ガラスを接着し、音と臭気を完全に遮断できるインテリアの箱を実現。内側に貼るフィルムによって、自然光を感じながら、プライバシーの度合いを調整可能。
  • トイレの箱-1
  • トイレの箱-2
  • トイレの箱-3
キッチンの壁:
光の入らない場所に、自然光を持ち込む事が出来る。通常ならば、ボード等で囲う間仕切り壁が、溝型ガラスと板ガラスのパネルで、光を通す開放的でかつ閉る事が可能なこれまでに無い、キッチンスペースを実現。
  • キッチンの壁-1
  • キッチンの壁-2
浴室の壁:
洗面室の家具を納めた壁の外側に飛散防止のフィルムを貼った板ガラスでプライバシーの機能を確保しつつ、光に満ちた開放的な浴室空間。天井に仕込まれたスピーカーの音楽を楽しみながら、レインシャワーを堪能できる私的な空間を実現。
  • 浴室の壁-1
  • 浴室の壁-2

この様に、状況に合わせて、ガラスの種類や、プライバシーを調整できる飛散防止フィルムの使い分けで、多機能な間仕切り壁が可能です。冒頭でもお話しましたが、住まい手が光を感じながら日々の生活を送る事ができるガラスの使い方には、無限大の可能性があります。皆さんも是非、住宅に自分だけの光とプライバシーを作り上げて下さい。
 めくら壁で薄暗い閉め切られた部屋での生活から、開放的で可変的な光を楽しむ、生活そのものを楽しむ空間作りを是非、体験して下さい。
 それぞれに望んでいる個人的な価値観をガラスの素材を最大限に引き出しながら、日々の生活に取り入れて下さい。
 ガラスの素材は住宅の器の中で、その夢を現実にする事が可能です。


余談

ガラスは危ないと思われがちですが、今回の3月の大地震でも、一切の被害はありませんでした。きちんとした、揺れに対するゆとりを設計寸法に織り込めば、ガラス程安全な素材はありません。面の揺れに関しては、非常に強い素材の強度を持った材料である事を証明してくれました。

【きん とみお】

ハーバード大学 建築学科卒
I.M.PEI AND PARTNERS、磯崎新アトリエ 勤務を経て1994年 DESIGN OFFICE opposition を李勝代と共同主宰。
住宅レベルから都市的レベルまで、内部・外部空間のデザインに幅広く従事。