• ホーム  >  
  • 住まいの情報(百・家・争・鳴)

住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

「愛される」家づくり

一級建築士 村上由希子

村上由希子

 「この梁は、私が山から切って運んできて、木の皮を剥いだんだよ」ーー。

 2年前にさいたま市で、築40年のお宅のリフォームを担当させていただいたときのことだ。天井を落とすと、黒光りする太い丸太の梁が姿を現した。それを見た80歳代のおばあちゃんが、懐かしそうに話してくれた。「近所の人にも手伝ってもらって、山からここまで転がしてきたの」。家の歴史を振り返るおばあちゃんの表情は、生き生きと輝いていた。祖父が建て、父がリフォームし、子の世代に引き継ぐ。三世代の生活が息づいた「住まい」に、胸の鼓動が高鳴った。

おばあちゃんが木の皮を剥いだ立派な梁
おばあちゃんが木の皮を剥いだ立派な梁

 それ以来、「愛される住まい」をお客様と共に創り上げることを心がけている。設計をする上で大切にしていることはいくつかあるが、自分の至上命題はこの一言に尽きる。住まいは人生の中で、多くの時間を過ごすことになる特別な場所。そこが居心地がいいのはもちろん、愛着を持って住み育てていってもらえることが、暮らす楽しみ、生活の豊かさに繋がっていくのではないだろうか。

 愛着を持ってもらう方策の一つが「知ってもらう」ことだと思っている。現代社会では、生産の現場と消費する市場が余りにもかけ離れている。ともすると、設計者でさえ、例えば「フローリング」という商品を「山々の命ある木々」の結晶なのだとは見なくなってしまっている。まして消費者であればなおさらだろう。

 そこに愛情が生まれるはずもない。あのおばあちゃんの思い出話が頭に残っている。山から木を切り出すことで木の命をもらっていると実感し、山々に感謝する。自らの手で作り出すことで、親しみが深まる。そこには現在では失われている感覚があるように感じる。完成した製品だけを見るのと、育ててくれた人、製材してくれた人がいて命ある木を頂いたのだと感じられるのでは、心のどこかに大きな違いが生まれるはずだ。「知る」ことで、大切にする心が育まれる気がするのだ。

 「知ってもらう」ために、様々な工夫を凝らしている。その一つが家造りに使われる素材、関わる職人さん達と、お客様の間の距離を少しでも近づけることだ。いま紀州和歌山でお仕事をさせていただいているが、お客様を連れ立って工務店さんと設計者とで、床や柱などに使う紀州杉の製材所を見学に伺った。

山から切り出された木々
山から切り出された木々

 休日の土曜日に無理を言って見学させていただいた山本製材所の中は、山から切り出された丸太がごろごろ転がっていて、木の香りが充満していた。大きな製材用の機械が並び、うっかりすると簡単に指が飛ぶような大けがをしてしまう。職人さんに危機管理のために備えていることは何かを聞くと、しばらくはにかんだ顔で考えてから、さらっと「楽しんで仕事をすることだね!」とにこやかに答えてくれた。嫌々やっていたら気が抜ける。楽しんで仕事をするからこそ気力も充実し、危険を察知できるのだという。シンプルだが、心意気が伝わってくる重みのある言葉に、お客様も大きくうなづいていた。お客様にはその場で気に入った天板や床柱を選んでいただいた。それはきっと素材への思い入れに結びついたはずだ。

  • 製材している職人さん
    製材している職人さん
  • 床柱選び
    床柱選び

 また、壁の漆喰塗りもお客様に体験してもらった。地元和歌山で事業をなさっているお客様は、ご自宅をご自身のプライベートな生活の場としてだけでなく、友人が気軽に顔を揃えて縁が広がる場、社員が集まって親睦が深まる場として「愛される場所」にしたいとの思いを持っておられた。そのきっかけ作りとして、壁塗りはご家族のほかに友人、社員にも手伝っていただくことにした。たくさんの方にご足労いただいたが、「この壁は私が塗った!」と自慢げに声を揃えて喜ぶ様子に、心の中で狙いは成功だったと思っている。

壁塗り中
壁塗り中

 紀州の家のコンセプトは「紀州の実業家が暮すダンディハウス」。この家に集う方々は、訪れるたびに「この壁を塗った」という体験を思い出し、愛着を持っていただけるのではないかと思う。

 「愛される」住まいになることで、その方の暮らし、生活が豊かになってくれることを願ってやまない。また、設計者としてもずっとその住まいに愛着を持ち続け、住まいの伴奏者として常に寄り添っていきたいと思っている。紀州のダンディハウスもその一つ。これからそんな住まいがもっと増えるように、心のこもった家造りをどんどん手がけていきたい!

完成写真
完成写真

【むらかみ・ゆきこ】

株式会社DUO 代表取締役

芝浦工業大学大学院卒業後、TAOアーキテクツ、三村建築環境設計事務所で経験を積み独立。
お客様と二人組という思いを込めて社名を「DUO」とし、愛され続ける建物を通して、お客様の人生を豊かにするパートナーとして活動中。

【公式サイト】
株式会社DUO