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住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

住宅の幸福度

一級建築士 聶立東

聶立東

2011年3月11日の東日本で起きた大地震による津波と原発事故による甚大な被害は多くの悲しみと試練をもたらしました。建物は津波の力によって一瞬のうちに押し流されてしまい、原発事故で避難区域の住民は家に帰ることが出来ず、今後人が住めるようになるまでどのくらいの期間がかかるか判らない状況です。

建物は土地に根を張って建つ物ですから、震災は住宅の根幹を揺るがす出来事となりました。しかし、私達はその土地に根ざしたコミュニティーによって生かされていることを認識する沢山の助け合いを知りました。人と人との絆によるコミュニティーがあって、私たちの日常が形成されていたのです。

住宅を購入するとき何を判断の基準に据えるのでしょうか。どうしても不動産的な側面の「立地」「面積」「価格」に目が行ってしまいがちになります。それらの情報をもとにして住宅を探すと予想していたところと全く違う場所に住んでしまうこともあったのではないでしょうか。

「住む場所」というのは家族・友人・地域住民など人の繋がりや、職場・学校・周辺施設など地域社会との関わり合いがあって成立しています。住宅を求める際の判断基準を不動産価値で捉えるのではなく、コミュニティーを形成する、人とのつながりを判断基準にして、自分たちがどこで生活するか、どのように家族や友人と過ごすかを思い描くように努めていけば、必然的に「住む場所」が見えてきます。

場所を決めたら、そこでの家作りがスタートします。でも、求めていたより面積が狭い場合もあるし、違う要素があるかもしれません。では、どうすれば解決できるか。そういった時こそ自由な発想と工夫で住宅を構築していくのです。どうすると幸せに過ごすことが出来るかを考えて、日々の生活を軸にあたらしい生活のスタイルを作りましょう。

筆者が手がけた物件のストーリーをご紹介いたします。

施主は30代の子育て家族です。都市郊外で自営業を営んでいます。お子さんがまだ幼いということもあり、通勤時間をできる限り短くしたいというご希望でした。徒歩で移動できる距離であれば、不測の事態が起きても、家族がひとつになることが短時間ですむというのが最大の理由です。また、祖父母も近くに住んでいました。

そこで、職場から徒歩一時間(約5km)を条件に物件を探すことになりました。駅から徒歩の距離が短くなると価格が高くなってしまいますが、都市部は公共交通が充実しているので、この際、車を維持していくことを止めても良いのではと判断。そのかわり公共交通を利用するので、駅からの近さも考慮に入れ、中古でも可として探していきました。

駅から徒歩2分、職場へ3.8kmのところに、多少古いですが、良い物件が見つかりました。しかし、面積が45m2しかありません。以前の家は小さくてなかなか友人が呼べなかったこともあり、できるだけパブリックスペースは広く取りたいというご要望でした。 そこで、面積の半分をパブリックスペース、半分を水回りと収納+プライベートスペースとして、狭いながらも回遊性がある豊かな住空間を作ることにしました。

玄関を土間にしてそのまま台所と一体になるように計画することで廊下などの無駄を省きました。また、台所をオープンキッチンにすることで、食堂からリビングまでを一つの空間にしています。
玄関を土間にしてそのまま台所と一体になるように計画することで廊下などの無駄を省きました。
また、台所をオープンキッチンにすることで、食堂からリビングまでを一つの空間にしています。

既存の天井を剥がして、天井に高さを与えることで、実際の面積よりも開放感を与えています。
既存の天井を剥がして、天井に高さを与えることで開放感を与えています。
また、バルコ二ーに室内と同じ高さのデッキを設けて、床面の広がりを与えています。

  • 天井を高くしたことで、小さなロフト空間を作って、寝るスペースを上下で確保しました。
  • 天井を高くしたことで、小さなロフト空間を作って、寝るスペースを上下で確保しました。
既存の天井のままだと2.4mでしたが、天井を取り外すと2.8mになりました。
天井を高くしたことで上部にロフト空間を作り、プライベートスペースを上下に分割して確保しました。

お子様のために、小さいながらも遊びスペース兼勉強スペースを確保しました。
お子様のために、小さいながらも遊びスペース兼勉強スペースを確保しました。
子供部屋は暗い北側になってしまいがちですが、採光の良い南面にしています。

水周りを仕切りのない一体空間としています。お風呂に入るときはシャワーカーテンで仕切れるようになっていて、その反対側を衣類の収納棚にしています。動線が最小限で済みますし、機能的です。
水周りを仕切りのない一体空間としています。
お風呂に入るときはシャワーカーテンで仕切れるようになっています。
向かい側は衣類の収納棚にしています。
動線が最小限で済み機能的です。
また、玄関の土間ゾーンとプライベートゾーンをつなぐ回遊動線にもなっていて、
汚れて帰ってきた子供はそのまま手を洗ったり、お風呂に入ったりできます。

こちらに住まわれてからよくお友達が遊びにきています。通勤も毎日自転車で行くようになって15分。雨の日は電車で20分。ストレスにならずに気分転換にちょうど良い距離感です。通勤で始めた自転車もいつの間にか趣味になって、レースに参加するようになりました。子供の行事にも参加しやすくなったとか。 祖父母も近くにいてくれるので、仕事の都合上時間が不規則でも安心でき、お子様も祖父母の家へ行って遊ぶのがとても気に入っているそうです。

住宅が私たちの生活に与える影響はとても大きいです。しかし、価格が高額な為、取捨選択していくうちに妥協の産物になってしまいがちです。なぜここに住もうと考えたか見失わないよう判断するには、周りの人たちとのかかわり合いを考えて、ストーリーを組み立てることが重要です。
 ストーリーの組み方は何を重視するかで大きく変わってきますが、人の価値観ではなく、ご自身の価値観で考えて「家」作りをしてください。きっと自分だけの「家づくり」があるはずです。

【しょう りっとう】

関東学院大学 工学部建築学科卒
ファクターエヌアソシエイツを経て1996年 エル・ケー・デザインオフィスを鈴木香織と設立。
住宅から店舗、ランドスケープまで内部・外部空間のデザインに幅広く従事。

【公式サイト】
LK design office