• ホーム  >  
  • 住まいの情報(百・家・争・鳴)

住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

地元の木で家をつくる

写真:縣美樹氏

縣美樹設計室 代表 縣 美樹

住宅設計を通しての活動

耐震住宅、シニアハウスのモデルプラン、住宅医、工務店サポートシステム、木造仮設住宅案、中国、韓国、モンゴルなど海外への日本式木造住宅の紹介、震災復興ボランティア(仮設の桧風呂を提供)など、今までに木造住宅設計の仕事を通じていろんな活動に参加させていただいてきていますが、その中の一つに地元工務店さんの応援をして、天竜の山を活性化させる為の共同モデルハウスの設計をさせていただく機会がありました。

◇ ◇ ◇

工務店さん達のサポート拠点となるモデルハウス
地元天竜の山の桧を100%使った、工務店さん達のサポート拠点となるモデルハウス

このモデルハウスは

地元の木を使い、
地元の大工さんが、
地域に合った住宅をつくる。

というコンセプトのもと、地元天竜の山の桧を100%使った、工務店さん達のサポート拠点となる共同展示場として計画されました。

もともとは懇意にしている材木業の社長さんの

  • ・本当の家づくりをしている大工さん達の姿を伝えたい
  • ・地元材の素晴らしさを伝えたい

という2つの思いから始まった事業です。

町医者のような存在の工務店

建物というのは建築の期間に比べ使用期間がとても長く、毎日毎日使用するものなのにメンテナンスも点検もほとんどしない方が多い様に感じます。

建物価格に比べれば格段に安い車ですら点検、車検を定期的にするのに、人間だって定期的に健康診断を受けるのに、住宅だけはどうもつくりっ放しな感が否めません。不具合が起こった後に「さあ、困ったどうしよう」という感じです。

そんな時に頼りになるのが、地域の町医者のような存在である地元の工務店さんです。
  愛情を注いで建てた建物ほど、手が離れてもその様子を気にしてくれて、お施主さんからの連絡があると親身になって相談に乗ってくれます。

しかし、地域に根付いてコツコツと仕事をしてきた工務店さん達は、仕事自体は実直で素晴らしくてもその良さを外に伝える事ができていません。
 宣伝、営業をほとんどしないので個人工務店さんとしての本当の良さが伝わっていないのです。

そこで、一社では持つ事のできないモデルハウスを共同展示スタジオとしてつくろうと、協議会が設立され、国土交通省の地域木造市場活性化推進事業に採択された事業として建設する事になりました。

共同モデルハウス
複数の工務店の展示スタジオとして活用されている共同モデルハウス

地域材を使うという事

もともとこの事業に係わるまで、私には地域材を利用する特別な理由はありませんでした。
 外国材よりは国産材の方が地域の風土に合った住宅をつくる事ができるとの思いはありましたが、見た目がよければどこの材であってもあまりこだわっていなかったのが事実です。
 あえて言うなら地元天竜の杉は、他の地域からも信頼の高いブランド材であり、産地指名される材であること、輸送エネルギーがかからないだけ、環境には配慮された住宅となるかな、といった思いがあった程度です。

しかし、これらの活動を通して山の現状や林業の現実などを知る事により、その考えは変わっていきました。

日本三大美林、天竜の山々
日本三大美林、天竜の山々

天竜川流域がある静岡県の山林環境は日本の山林環境の縮図だと言われています。
 海があり、山があり、産業が発達し、そして敷地面積の70%以上が山林である比率が日本のそれと似てるのですね。

天竜の山は、奈良県吉野地方、三重県尾鷲地方と並んで、日本三大人工美林のひとつに数えられています。
 林野面積は86,200ヘクタールあり、そのうち人工林が55,000ヘクタールと約8割を占めています。山の大半は人工林です。天竜の山は、人々によって植樹され、手入れされながら永い歴史のなかで築かれてきました。

人工林は、密植して間伐するという独特の循環システムを持っていて、植付けと間伐の本数をコントロールすることにより山林環境が維持されています。
 下刈り、除伐、蔓切り、枝打ち、間伐といった細やかな人間の手入れなくしては、人工林の良質な環境は保つことができません。
 自然に生育された山というよりは手入れをして人の手で育てている山なのです。ちなみに北欧では山のことを木を生産する場所であるため、ファーム(農場)と呼んでいたりします。

森林は、洪水や土砂崩れなどの災害を防ぎ、渇水を緩和する機能をも持っていますが、これらも人が手を入れればこその機能です。また、人工林は災害防止に役立つだけでなく、森林の再生・循環のプロセスを通じて二酸化炭素を吸収し、問題とされる地球温暖化防止にも高い効果を発揮しています。

地元天竜産の桧を100%使ったモデルハウスを建設するという依頼の中で、ふと疑問に思ったのが木造住宅と森林伐採の関係についてでした。

地元の木を使うという事は経済的には地域に貢献するが、環境に対してはどうなんだろう?

二酸化炭素を吸収する木を伐採してしまうのは森林破壊ではないだろうか?

そんな疑問をまわりに投げかけてみるとあっさりと答えがかえってきました。

森を守るためには、正しい間伐や伐採により、新しい若木を育てる必要がある。
 なぜなら、古くなった木々よりも新しい若木の方がCO2の吸収力が強いから。
 古い木を残しておくことは、森が荒れてしまうことにも繋がるのだということを初めて知りました。

伐採された木は燃やさない限り二酸化炭素を木材の中に閉じ込めておいてくれます。

つまり、木造住宅をつくるという事は森の中で二酸化炭素で一杯になってしまった容器(古い木)を町におろし、森の中に新しい空の容器(若い木)を備え付けるシステムに参加する事になるのです。
 私たちが地元の材を使って家をつくるということは、地域に住む人の安全と安心を得ることにもつながるのです。

桧で造られた共同モデルハウス室内
桧で造られた共同モデルハウス室内

森林は、地上資源であり、人間の手入れさえ行き届いていれば、永遠に再生してくれる再生可能資源です。
 資源の少ないと言われる日本において、もっと大事にされるべきものです。
 大事にするというのは使わずに守るのではなく、使って循環させ、良い循環をつくるということです。

このためには、下流域の町の家に地元の木を用い、山と町が一緒になって環境を守る意志を持つことが大切なのです。

昨今、多くの外国産材が輸入され、使用されています。それに伴い国産材の使用が減少しています。
 戦後すぐには95%もあった木材の自給率が30%程度にまで落ち込んでいます。
 これにより、国内の林業に従事する人々の仕事が減少し、森林の手入れが行き届かないという状況が生じています。
 近年日本各地で起こる土砂災害は、観測史上初と言われる降雨量とともに、山が不健康になっている為に引き起こされているのです。
 本来、森は、山の表土を守り、山崩れを抑えます。緑のダムとして渇水や洪水をも防いでくれます。
 森は、CO2を吸収し、きれいな空気を作りながら成長しています。

しかし今、日本の森林が危機に瀕しています。

これは天竜地域に限った事ではありません。

毎年の様にニュースになる大雨と大規模な土砂災害、これは山が、林業が不健全になった証拠です。災害に対して強い家をつくるだけでなく、家づくりを通して自分の町を、山を守っていくプロセスに参加する方法があることを是非多くの方に知って頂きたいと思います。

水害対策を施した高床式の住宅
水害対策を施した高床式の住宅

なぜ今桧を使った住宅をおススメするのか

総桧造りというと昔はものすごく高級な住宅を想像しました。
 一般には手が出ない価格の住宅であったり、大豪邸であったり、、、。
 桧は神木としてのお寺や神社にも使われていますが、一般的な住宅構造材の杉よりも約2倍の期間をかけて大きくなります。
 杉が30年で柱などに使う適正な大きさになるところ、桧は約60年かかります。

節の少ない「木」にする為にはその間に枝打ちなど手をかけて育てる必要があります。決して勝手に育っていくものではないのですね。
 そう考えると単純に2倍の価格価値がありそうですが、今、林業関係者に話を聞くと桧の値段が昔に比べずっと低くなったと言われます。
 原木の値段が下がってしまい、人件費が大きな割合を占めるため樹種の価格差が少なくなってきたのですね。
 戦後、治水事業の為に植樹された桧材が、今、丁度採り頃になっています。
 杉との価格差があまりなくなった今、せっかくなので利用してほしいと思います。

桧のドア、洗面台、カウンター
桧のドア、洗面台、カウンター

桧は色、ツヤ、強度の他にその香りが独特で人々を魅了します。
 海外でも桧材はその効能からとても人気で、韓国などからもこちらのモデルハウスには見学者がやってきます。

日本で使う人がいないなら海外への輸出もあり得ますが、それでは外国材を私達が使うのと同じ事になってしまいます。
 木材の無い国ならともかく、やはり環境を考えるとできるだけ近くで消費するのがいいのではと思います。

« 桧の効能 »

拡大サイズがご覧になれます(PDFファイル[223KB])。
PDFファイル[223KB]でご覧になれます。
※桧の効能「天竜・無垢の木・ひのきの家普及促進協議会」より

【あがた・みき】

縣美樹設計室 代表

1995年 昭和女子大学生活美学科卒業
1997年 米国政府公認建築士事務所 大橋諭アーキテクチャー入所
2005年 同事務所退社
2005年 APROJECT 建築デザイン事務所設立
2012年 縣美樹設計室に事務所名変更

現在、「天竜・無垢の木・ひのきの家普及促進協議会」の設計アドバイザーとして地元天竜桧の普及促進の活動中

【公式サイト】
http://agatamiki.com/

【著者関係サイト】
「天竜・無垢の木・ひのきの家普及促進協議会」
http://www.hinokinoie.com