住まいの情報 ● 百・家・争・鳴

日々の暮らしのリズムを心地よく、快適に
〜会話を大切に、家づくりを家族で楽しもう。〜

建築家 日本建築家協会会員 千ヶ崎 裕恒

一日の幸せは、朝のスタートから始まる。
家族のコミュニケーションはとれていますか。

暮らしに合った家づくりのために、日々の暮らしを見直した設計の実例を紹介しましょう。
 世帯主Aさんは、大手企業に勤めるエンジニアです。妻は専業主婦で子供は3人、すべて女性で大学生の長女、大学受験、高校受験を控えた二人の娘さんも塾通いの時期を迎えています。
お父さんは、技術者として忙しい研究職に就いて重責を担っており、ほぼ毎日残業をしています。帰宅は遅く普段家族全員で食事をすることは、とても難しい状況にあります。大学生の長女は、自立の道をたどり始める時期でもあり外で友人と外食をすることもあります。受験を控えた二女、三女も、塾で夜遅くなることが多く、こころも揺れ動く時期であり、親子関係によっては、ますます会話の機会が少なくなることになります。
これは意外によくある今の日本家族の生活スタイルの一つかもしれません。

暮らしの問題点をメモにまとめてみると、このままでは家族で会話する時間がほとんどないので、朝の時間帯を大切にする生活リズムに改めることになりました。
朝食は必ず全員でそろってテーブルに着き、お互いの顔を確認する。
 相談事やその日の予定や話題を共有できるように、暮らしのリズムに合わせて設計も工夫することになりました。

朝の挨拶を爽快にするためにできることは何か!朝の忙しい時間帯をスムーズにする。

朝は出勤通学準備で忙しい時間帯、30分早起きを家族全員の約束事に!

現在は、トイレ洗面が一箇所しかなく朝は戦争状態になっていたので、トイレを3箇所、個人専用の洗面化粧台を4箇所設けて待ち時間をなくし、イライラの解消と時間の節約を優先させることにしました。
さらに、浴室とは別にシャワー室も設けることにし、朝の仕度の機能性は大幅に改善されることになりました。

もう一つは、玄関です。二人三人でも同時に靴が履け、そろって出かけても快適に余裕のある玄関になりました。
 一般家庭の日用品は履き物以外の数も多く、靴入れだけではとても足りないので、玄関の横に、さらに広めの収納室をつくり、何時でも整理整頓された綺麗な玄関にしました。
 朝日の光が溢れた玄関も素敵ですね。玄関から幸せがやってくるといいますが、あたっているかもしれません。

  

食卓のテ−ブルは、90cm×200cmとしては家族全員の配膳が楽にできる大きめサイズとしました。
 この設計例はあくまでもAさん家族の暮らし方の分析からできたもので、同じ暮らし方の家は無いということです。家族のコミュニケーションは、広いリビングルームや茶の間があっても、家族が集まらなければ日々の会話は成立しません。
 朝の時間を大切にするという目的をはっきリ持った建築空間は、人のこころに大きな影響を与える力を持っています。住まう家族の一員がそれぞれ主役になれることが重要です。
 家族の生活のリズムに合った間取りをぜひ検討してみては、いかがでしょうか。

家づくりは、家族の関係を見直す良い機会
暮らしを考える楽しみを家族で共有して、明日の元気につなげよう。

朝日が入る明るい玄関に広い収納がある設計実例

  

快適さは人間を大切にすること。 自分の落ち着く場所は住まいにありますか。

 家族関係は、年齢と共に変わります。
夫婦二人の時期、子育ての時期から子供たちの自立、そして第二に人生の時期と変化していきます。最近は、犬や猫のようなペットも人生の中の生きがいとして家族と同様に大事な役割を果たすことがあります。
 変化していく家族との関係に、余裕を持って対応するためにも、心の安定は欠かせません。そのためには、自分の落ち着く場所を新築当初より確保することも必要ではないでしょうか。子供たちには、勉強部屋として独立した部屋が与えられても、限られた敷地と資金の中で、こだわりをすべて形にすることは不可能です。しかし、個室でなくとも寝室や部屋の隅に、階段の段の下に、または階段の踊り場に書斎コーナーを、可動式の机や本棚、パソコン一つで専用スペースをつくることは可能です。駐車スペースの一部に狭くてもホビー室を置く例もあります。
 主婦もキッチンの近くに小さな机と椅子で家事コーナーを設け、自分だけのパソコンと本棚がある専用スペースを設ける例が増えています。また洗濯乾燥機や食器洗い機も設置して、家事をうまくこなして趣味を上手に楽しむ人が増えています。
子供たちが独立した空いた部屋に、自分だけの居場所をつくっても、なかなかうまく再利用できずに、物置になっている例を見かけますが、これでは元気がなくなりますね。
“こころの休憩室”は早くから準備をしておくことが、生きる力を生み出す自分の空間づくりに欠かせません。日々の素敵な暮らしの積み重ねが幸せにつながる近道のようです。

階段をいじめて、窮屈な階段を設計していませんか。
家の中で最も事故が多いのは、実は階段と言うことをご存知でしょうか。

 映画、テレビドラマでも階段は、常に大切な演出空間として舞台になります。急いで出かけるときに段を踏み外しケガをして物語が急展開していく場面を見ますが、日常生活に本当に起きたら大変です。
 階段でケガをして歩行が困難になり体が弱るお年よりも多いのも事実です。ゆとりのある安心して暮らせる階段は、年齢を重ねるとなお更、設計の良さを実感するようです。
 子供の時分に階段で遊んだ記憶はありませんか。手すりの上を滑り降りたり、ジャンケンして上り下りをしたり、一度は滑って落ちたことがあるのではないでしょうか。子供にとっては、少しぐらい刺激のある場所の方が楽しい遊び場所になっているようです。

毎日使う階段は、設計するときにもう一度生活の大切な演出空間として捉え、安全に考慮しましょう。敷地が狭ければ、階段をリビング空間の一体にして視覚的に広く使うのも良いアイデアでしょう。

踊り場のあるゆったりした階段の実例

かつて日本では、お城も敵の防御のために、はしご階段が多く、非常時にはずして上下階を完全に分離できるようにしていました。移動できる便利な階段が良いとされてきました。商家や民家の二階や、屋根裏部屋の出入りも階段ダンスやはしご段で移動できるものが使われ、安全面はおろそかにされてきた歴史があったようです。
 急勾配の狭い階段は、事故につながります。蹴上げ(けあげ)は段の高さ、踏面(ふみづら)は足を乗せる面をさします。階段の安全性と上り下りのしやすさは、蹴上げと踏面の適度な寸法が決め手となります。蹴上げ19.5cm 踏面26cm程度のゆとりある設計にしましょう。(参考 バリアフリー技術基準 55cm≦2×蹴上げ+踏面≦65cm)
 使いやすい高さの手すりと、途中に踊り場があればさらに快適な階段になります。踊り場に2つ目のトイレ洗面を設けるのも良いでしょう。長く住み続ける住宅にするには、上階への荷物の搬入の容易さを考慮して階段幅を有効に90cm以上確保しましょう。
 照明計画は、昼と夜間を考慮して、自然採光を取り入れる窓の位置や、足元灯をうまく使い分けましょう。スイッチの位置も設計者と住まい手に合わせて十分検討して進めてください。

安全な階段の実例

 居心地のよい家は、自分らしさを住まいに表現することから始まります。
安心して長く住める家づくりの手がかりに、少しでもお役にたてる項目があれば幸いです。
素敵な楽しい家づくりになることを心からお祈りしています。

Architect 千ヶ崎裕恒

【ちがさき・やすつね】

(株)千ヶ崎・柳川・ズアー総合計画室 代表取締役 1953年生まれ
千葉大学大学院建築学修士課程を修了後、清水建設蠏築設計本部、椎名政夫建築設計事務所、統一前の西ドイツ名門の建築設計事務所ヘントリッヒーペシェニッヒ、パートナー事務所を経て独立。
住宅設計を中心に幅広く建築設計活動を行う。一級建築士。