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インテリアとライフスタイル

インテリアコーディネーター 町田 ひろ子

私がインテリアコーディネーターという仕事を考え、日本に広めたのは今から30年前のことです。当時は働く女性の数が少なく、女性らしさを捨てて必死に働かなければ男性と対等に仕事ができない時代でした。

しかし、あるときふと思ったのです。周辺の男性たちはみんな、朝から晩までオフィスで仕事、家に帰るのは寝るだけという生活。つまり、ほとんど家にいない、台所仕事をしたこともなさそうな人たちが住宅をつくり、キッチンの設計をしていて、本当に住みやすいものができるのだろうか、と。
「ここに、女性ならではの視点を生かせる仕事が成立するのではないか」と気づいたのは、そのときでした。男性と競争するのではなく、実際に家事をしている女性の感性が生かされる新しい仕事−インテリアコーディネーターという仕事は、こうして生まれたのです。
その頃に比べ、インテリアへの関心は広がり豊かになりました。キッチンメーカーのショールームには高級なシステムキッチンや大理石のキッチンカウンターが並び、ガスやIH(電磁加熱式調理器)などの最新設備も各メーカーが競って展示しています。キッチン設備の機能が上がって、料理や後片付けにかける手間も大きく減ってきています。

でも、キッチンから見た暮らしはどうでしょう?新築の戸建住宅に住み、高級システムキッチンを入れても、家事をするのはいつも奥さま。どんなに奥さまが疲れていても、ご主人はソファに座ってテレビを見ているだけ ― そんな家庭を想像してみてください。設備のグレードを上げたからといって、より快適に暮らせるようになるとはかぎらないのです。それを実感したのも欧米で暮らした体験です。
欧米のライフスタイルがよくわかっているインテリアコーディネーターなら、こんな提案をすることができます。キッチン設備の機能を充実させるだけでなく、ご主人が自然に入ってきてしまうキッチンをつくってしまおう、と。

例えば、部屋の中央に設備があるアイランドキッチンにしてみたらどうでしょうか?
たいていの家では、コンロやレンジフードは壁際にあるのが一般的。現実にも、そういうものだと思っている方が多いのも事実です。しかし、最近では、技術の進歩によりレンジフードの場所を自由に決めることができるため、どこにでも設置することが可能です。
キッチンの設備をどのようにレイアウトするかは、使う人の生活スタイルしだいなのです。
夫婦共働きの欧米の家庭では、リビング・ダイニング・キッチンの主役がアイランドキッチンになっています。
もし、キッチン設備が中央にあれば、テレビを見たりおしゃべりしながら、家族みんなで料理や後片づけができます。壁に向かってひとりで家事をしなければならないキッチンより、こちらのほうが楽しいし、ご主人も入りやすいに決まっています。
キッチンが変われば、生活スタイルは大きく変わります。これまで食後はテレビを見てくつろいでいただけのご主人も、気軽に後片付けを手伝ってくれるようになるかもしれません。「狭くて邪魔になるから、あっちに行ってなさい」と遠ざけていた子供たちも、自然にキッチンに出入りするようになるかもしれません。そうなれば、おのずとご主人との関係、子供たちとの関係も変わってくるはずです。ホームパーティだって生活スタイルが変われば家族全員参加で楽しく実現できるようになるでしょう。
「環境が人をつくる」とよく言われるように、人間は、自分を取り巻く環境に大きく影響される生き物です。でも同時に、その環境をつくっているのもまた人なのです。

キッチンにスポットをあてて1つ思い切って環境を変えることで、こんなに暮らしが変わり、新しいライフスタイルが生まれます。そんな暮らしの実現のお手伝いをするのが、インテリアコーディネーターの役割だと思っています。これからキッチンを取り巻く食環境は大きく変わっていくでしょう。責任もありますが、それだけにとてもやりがいのある仕事なのです。

生活環境が変われば生き方も変わります。住宅を購入しようと計画中の方、リフォームをしたいと検討中の方にアドバイスしたいのがインテリアコーディネーターのじょうずな使い方。プランの段階から始まると失敗がないのです。

特に最近では自宅を「バリアフリー」にしたいという依頼もふえています。そんなときに具体的な要望を尋ねると、たいてい「手すりをつける」「段差をなくす」といったお決まりの答えが返ってきます。
しかし、せっかく手すりをつけても、その形や取り付ける位置によっては、通行の邪魔になったり、にぎると冷たくてさわれないなど、かえって障害(バリア)になってしまうケースもあります。自宅で住み続ける事を考えたら、手すりは必要になった時に使えるように壁下地を準備しておけば十分なのではというのが私の考え。むしろ、もっとインテリアコーディネーターとして積極的にすすめているのが「ビューティフルバリアフリー」の発想です。 ビューティフルというのは、心のバリアを取り除くという視点。元気で美しく住み続ける生活環境づくりを目指しています

例えをあげれば、夫婦の寝室は畳に布団を敷いて就寝するよりも早目にベッドを取り入れベッドルームにする生活スタイルの実現です。
子供がいて話しにくい夫婦のプライベートな語らいもベッドルームで出来ます。夫婦の語らいにはゆったり掛けられるソファやバーキャビネットがあったらより心地よいと思いませんか。そんな生活スタイルは、ホテルに滞在しているようなイメージをうかべてみるのがわかりやすいかもしれません。
日本の住宅ではそれを実現されている事例はまだ少なく残念です。

寝室のインテリアを考えたらトイレ、洗面、シャワーもそのすぐ隣につくってみる。実はこれがビューティフルバリアフリー思想。
このようにインテリアとライフスタイルは切っても切れない関係なのです。

というわけで、そのような生活スタイル実現を積極的に提案し続けているのが私自身なのです。

町田 ひろ子 経歴 ― Hiroko Machida ―

公的委員 国際インテリアコーディネーターユニオン(IICU)会長/
国際インテリアデザイン協会(IIDA)名誉永久会員/
(社)インテリア産業協会・関東甲信越支部運営委員/
(社)全国産業人能力開発団体連合会理事/
NPO屋上開発研究会理事/
東京商工会議所女性会会員/
輸入住宅産業協議会副会長/
長崎総合科学大学客員教授
代表作 フォーシーズンズホテル東京「椿山荘」(インテリア設計)
西海橋コラソンホテル(総合プロデュース)/
ホテルアソシア高山リゾート(インテリアデザイン)/
青山ラピュタガーデン・レストラン(インテリア設計)/
名古屋アソシアマリオットホテル(インテリア及びFFE実施設計)
WAC IN 長崎・特養棟他(インテリアデザイン・デザインコンサルティング)
その他多数
著書・監修他 「インテリアコーディネートの常識」翻訳・監修/
「ホームファニシングブック」翻訳・監修/
「インテリアコーディネータになれる本」(大和出版)/
「インテリアコーディネートの100ポイント」(学芸出版社)/
「インテリアコーディネートの実際」翻訳・監修/
「インテリアスタイルの技法」翻訳・監修/
「元気で美しく生きる住まいの知恵」(ぎょうせい)/
「Beautiful Barrier−Free」翻訳・監修/
「福祉住環境コーディネーターになる本」(大和出版)/
「あなたもなれるインテリアコーディネーター」(大和出版)

【まちだ・ひろこ】

インテリアコーディネーター

武蔵野美術大学産業デザイン科を卒業後、スイスで5年間家具デザインを研究。'75年にアメリカ・ボストンへ渡り、「ニューイングランド・スクール・オブ・アート・アンド・デザイン」環境デザイン科を卒業。'77年に帰国し、日本で初めて「インテリアコーディネーター」のキャリアを提唱。 '78年に「町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー」を設立。 '85年「学校法人町田学園」設立。現在全国7校のアカデミー校長として教育活動に努めている。また一級建築士事務所(株)町田ひろ子アカデミーの代表取締役として、インテリア・プロダクトデザイン・環境デザインと幅広いジャンルのプロジェクトを手掛けている。'00年からはインテリアコーディネーターなど住環境関連のスペシャリストを派遣する人材派遣会社(株)アイシースタッフの会長も務めている。
http://www.machida-academy.co.jp/